国立天文台と韓国天文宇宙科学研究院(Korea Astronomy and Space Science Institute: KASI)は、GPU(Graphics Processing Unit)技術を基盤とした新型分光計の開発に5年以上の歳月をかけて取り組んできました。この新型分光計は、モリタアレイの口径12mアンテナ4台(トータルパワーアレイ)の観測データ処理に利用されます。今回、パンデミックという困難な状況の下、合同開発チームによって新型分光計が山頂施設に設置され、「オリオンKL領域」から初の電波スペクトルを取得したのです。
トータルパワーアレイは、空に大きく広がった天体の明るさを高い精度で観測するために重要な役割を果たします。トータルパワーアレイで観測されたデータは分光計によって処理され、のちにアルマ望遠鏡の他のアンテナで取得したデータと結合され、最終的に画像が生成されます。現在は、ACA相関器がトータルパワーアレイのデータ処理を担っています。
GPUは画像処理やビデオゲームなどのデータ処理に広く使われています。GPUによって高い線形性、ダイナミックレンジ、スペクトル感度が実現し、非常に明るい天体を取り巻く暗いガスのスペクトル線を正確に測定できるようになると期待されます。また、機械構造がシンプルであるため、比較的容易に拡張機能が実装できるという利点もあります。
新型分光計プロジェクトの代表者であるKASIのジョンスー・キム氏は「新型分光計のファーストライトを見ることができ、うれしく思います。この分光計は、装置開発においてKASIからアルマコミュニテイへの最初の大きな貢献となります。KASIと国立天文台の共同研究において、5年以上も前から献身的な努力を続けてきた開発チームの方々に感謝します。また、新型分光計の設置からファーストライトの取得までの一連の作業を手伝ってくださった多くの合同アルマ観測所や国立天文台の同僚に感謝します。」と語っています。
また、国立天文台の新型分光計責任者の渡辺学氏は以下のように述べています。「新型分光器で得られた美しいスペクトルを見ることができ、とても興奮しています。この成果は、アルマ望遠鏡の様々なグループや個人との密接な協力、そして言うまでもなく、プロジェクトチームの献身的な努力のおかげです。2022年4月から5月にかけて予定されている科学検証観測では、新型分光計の能力を存分に発揮してくれるでしょう。」
新型分光計プロジェクトは、KASIがアルマ望遠鏡東アジアコンソーシアムに参加した直後に開始されました。プロジェクトの最初のマイルストーンは2016年9月24日に開催された概念設計レビューでした。その後、予備設計審査(2017年2月20―21日)、基本設計製造審査会(2019年12月4―5日)、予備受入審査(2021年11月29―30日)といった一連の審査を無事通過しています。2022年4月から5月にかけては、性能検証と科学検証観測を行い、サイクル10の観測が始まる2023年10月から科学観測に使用される予定です。
東アジアアルマプログラムマネージャーの国立天文台アルバロ・ゴンサレス氏は以下のように述べています。「ACA分光器のファーストライトは、KASIと国立天文台の共同開発において非常に重要なマイルストーンであり、両機関の多くの人々の努力と合同アルマ観測所からの貴重な支援によって実現されたものです。世界的なパンデミックにより、現地での設置は困難を極めたため、ファーストライトのスペクトルを見ることができたのはとても喜ばしいことです。今後、さらなる試験が必要ですが、この新しい装置が提供する能力を、サイクル10から共同利用観測に提供できるよう、私たちは努力をしていきます」。
新型分光計は天体からの信号を二つの偏波として受信し二つの偏波の相互相関を計算することができます。また、4台のアンテナで受信した信号の相互相関を計算することもできます。4台(+予備1台)のGPUサーバーと1台(+予備1台)の監視制御用サーバー、双方向スプリッタ、光信号増幅器で構成されており、各サーバーには4枚のGPUカードと2枚のデータ収集カードが搭載されています。双方向スプリッタを用いることによって、光信号の経路を新型分光計とACA相関器に分岐します。また、スプリッタによる信号低下を補うために光信号増幅器が経路に設置されています。監視制御サーバは、GPUサーバの制御および新型分光計の監視情報の収集・保存、GPUサーバからアーカイブシステムへのデータ送信の役割を担っています。