星の衝突でまきちらされた放射性元素を発見

アルマ望遠鏡とフランスにある電波望遠鏡NOEMAの観測から、宇宙で初めて放射性元素を含む分子が発見されました。フッ化アルミニウムの同位体分子 26AlFです。この同位体分子は、西暦1670年に観測された新星爆発によって宇宙空間に放出されたと考えられています。

 

アルマ望遠鏡とジェミニ望遠鏡で観測したこぎつね座CK星

アルマ望遠鏡とジェミニ望遠鏡で観測したこぎつね座CK星。アルマ望遠鏡で検出したフッ化アルミニウム27AlFの分布を赤、ジェミニ望遠鏡で検出した水素の光を青で表現しています。ここで示しているのは安定同位体27Alを持つ分子の分布ですが、放射性同位体26Alを含む分子も同じように広がっています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Kamiński & M. Hajduk; Gemini, NOAO/AURA/NSF; NRAO/AUI/NSF, B. Saxton


 

太陽のような星が衝突すると、劇的な爆発が発生します。夜空に突然明るい星が生まれたように見えることから、このような現象は『新しい星(新星)の誕生』として記録されてきました。今回、アメリカのハーバード・スミソニアン天体物理学センターに所属するトーマス・カミンスキー氏らの国際研究チームが、アルマ望遠鏡とNOEMAを使って観測したのは、こぎつね座CK星です。この天体は、1670年に新星として記録されていた天体で、現在では恒星衝突のなごりであることがわかっています。こぎつね座CK星の場合、出現直後は肉眼でも見えるほど明るく輝いていましたが、その光はすぐに暗くなってしまいました。348年後の現在では、巨大な望遠鏡を使わなければこの星のまわりを見ることができません。

研究チームが見つけたのは、13個の陽子と13個の中性子からなる放射性アルミニウム26Alとフッ素が結合した、26AlFという分子からの電波です。放射性原子を含む分子を太陽系外で発見したのは、今回が初めてです。宇宙に存在するアルミニウム原子の大半は、13個の陽子と14個の中性子を持つ27Alであり、これは放射性崩壊を起こさない安定な元素です。いっぽう26Alは27Alよりも余分なエネルギーを持っているため、放射性崩壊を起こしてマグネシウムの同位体26Mgに変身します。

「放射性原子を含んだ分子の発見は、宇宙における冷たい分子ガス雲の研究において重要なマイルストーンといえます」と、カミンスキー氏はコメントしています。

こぎつね座CK星は、地球からおよそ2000光年の距離にあります。アルマ望遠鏡で観測したのは、恒星の衝突によって生じた残骸です。この残骸に含まれる26AlFが放つ特有の波長の電波を、アルマ望遠鏡がとらえたのです。

いろいろな分子が放つ特有の波長の電波は、いわば分子の「指紋」であり、手の届かない宇宙に浮かぶ分子の種類の特定に役立ちます。一般には、地球上の実験室で分子が放つ電波の波長を調べ、これを基礎資料として宇宙からやってくる電波の波長と比較することで、分子を特定します。しかし26AlFの場合、この手法が使えませんでした。なぜなら、26Alは地球上には安定して存在しないからです。ドイツ・カッセル大学の実験宇宙物理学者たちは、豊富に存在する27Alを含んだ分子27AlFが出す電波の「指紋」を使って、26AlFが出す電波の波長を正確に推定しました。

こぎつね座CK星で放射性原子を含む分子が見つかったことで、星の衝突過程についても新しい知見が得られました。重元素や放射性元素が生まれる星の内部が、星の衝突によってかきまぜられ、星の奥深くにあった物質が宇宙空間に汲み上げられていたのです。解析の結果、衝突したふたつの星のうちの一つは、太陽の0.8倍から2.5倍の質量をもつ赤色巨星だったと推定されました。「私たちは、3世紀も前にバラバラになった星のかけらを見ているのです。すごいことですよね。」とカミンスキー氏はコメントしています。

 

衝突するふたつの星の想像図

衝突するふたつの星の想像図。手前の赤色巨星の内部構造も図示しています。26Alを含む薄い層(茶色)が、ヘリウムでできた中心核を取り囲んでいます。その周囲には対流層があり、星の外層を作っています。しかしこの対流層は26Alの層には届いておらず、通常では26Alが星の表面まで汲み上げられることはありません。星どうしが衝突してこそ、この内部の26Alが外に出てくるのです。
Credit: NRAO/AUI/NSF; S. Dagnello


 

天の川銀河全体では、太陽3個分に相当する質量の26Alが存在すると考えられてきました。これは、26Alが放射するガンマ線の観測にもとづいた推定です。しかしガンマ線の観測では、その供給源までは突き止められていませんでした。

今回の観測で、こぎつね座CK星のまわりの26Alの質量は、冥王星の質量の1/4ほどだということがわかりました。恒星衝突はごくまれにしか起きない現象ですから、恒星衝突だけで天の川銀河に存在する26Alのすべてを説明することはできないようです。しかし、今回の観測で検出されたのは、フッ素原子と結合した26Alだけでした。もしかしたら、原子として単独で存在している26Alがもっとたくさんあるかもしれません。あるいは、恒星の衝突の仕方によっては、もっとたくさんの26Alが汲み上げられるのかもしれません。「これですべてがわかったのではありません。恒星衝突が、もっと重要な意味を持っているかもしれないのです。」とカミンスキー氏は語っています。

 
論文・研究チーム
この研究成果は、Kamiński et al. “Astronomical detection of a radioactive molecule 26AlF in a remnant of an ancient explosion”として、英国の天文学専門誌「ネイチャー・アストロノミー」に掲載されました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Tomasz Kamiński (Harvard – Smithsonian Center for Astrophysics), Romuald Tylenda (N. Copernicus Astronomical Center), Karl M. Menten (Max-Planck Institut für Radioastronomie), Amanda Karakas (Monash University), Jan Martin Winters (IRAM), Alexander A. Breier (Universität Kassel), Ka Tat Wong (IRAM), Thomas F. Giesen (Universität Kassel), Nimesh A. Patel (Harvard – Smithsonian Center for Astrophysics)

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