2021.07.13
超新星爆発は超巨大ブラックホールの給仕係?
国立天文台アルマプロジェクトの永井洋特任准教授らの研究チームは、ペルセウス銀河団の中心にある巨大楕円銀河NGC 1275(距離:約2億3千万光年)を、アルマ望遠鏡を用いて観測し、他の銀河と同様、核周円盤を発見しました。円盤の半径は約300光年で、分子ガスの総量は太陽質量の約1億倍にもなります。研究チームはさらに、アメリカ国立電波天文台のVery Long Baseline Array (VLBA)によって観測されたデータを用いて、核周円盤の領域を調べました。VLBAは、超長基線干渉計(VLBI)と呼ばれる手法で観測する装置で、アルマ望遠鏡同様、複数の電波望遠鏡が連携して高い解像度を発揮しますが、アルマ望遠鏡よりもさらに基線長(望遠鏡間の間隔)が長いため、天体の細かい構造を見るのに適しています。また、アルマ望遠鏡が観測する電波よりも波長が長い「センチ波」を観測していて、高速で運動する高エネルギーの電子が磁場と相互作用することによって放射される「シンクロトロン放射」を検出するのに向いています。VLBAの観測から、NGC 1275の核周円盤の全体にわたって、淡く広がったシンクロトロン放射が発見されました。シンクロトロン放射はブラックホールから噴出するジェットなどからも放射されますが、今回観測されたシンクロトロン放射の分布は核周円盤の分布と非常に良く一致することから、核周円盤から放射されていると考えるのが自然です。しかし、分子ガス自身はシンクロトロン放射を生み出さないので、核周円盤内で高エネルギー電子と分子ガスとが共存していると考えられます。では、その高エネルギーの電子はどこからやってきたのでしょうか。
答えは、超新星爆発です。分子ガスは星を作る材料であることから、円盤内でも星が生成されていると考えられます。こうして作られた星のうち、質量の大きな星は、寿命を迎えると超新星爆発を起こし、大量の高エネルギー電子を生成します。ブラックホール近くの核周円盤内で超新星爆発の痕跡を撮像によって明らかにしたのは、これが初めてです。
超新星爆発は、周辺に大量のエネルギーを供給します。これによって、核周円盤内のガスの運動が乱され(乱流)、角運動量が弱められることが理論的に期待されます。実際に、理論的に予想される乱流速度と、アルマ望遠鏡で観測された分子ガスの運動の乱れが良く一致することがわかりました。「超新星爆発を使って角運動量を弱めるアイデアは、これまで理論的に提唱されていましたが、観測結果と理論が良く一致することに非常に驚きました。」と、呉工業高等専門学校准教授の川勝望氏はコメントしています。
「アルマ望遠鏡とVLBAの高い解像度のおかげで、分子と高エネルギー電子という性質が大きく異なる2種類のガスを結びつけることに成功し、ブラックホールへの物質の降着を促す原因に迫ることができました。今後、他の活動銀河核においても同様の研究を行うことで、超新星爆発とブラックホールへの物質の降着を促す原因の関係を、さらに明らかにできると考えています。」と、永井洋氏はコメントしています。
論文情報
この観測成果は、H. Nagai and N. Kawakatsu “Diffuse Synchrotron Emission Associated with the Starburst in the Circumnuclear Disk of NGC 1275”として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に2021年6月9日付で掲載されました。