2021年8月6日、アルマ望遠鏡科学観測「サイクル 8 2021」の観測提案審査結果が天文学コミュニティに発表されました。審査の結果、優先度の高い観測計画が253件選ばれました。この観測は、2021年10月からアルマ望遠鏡を用いて順次実行されます。
アルマ所長を務めるショーン・ドゥアティ氏は「どのような提案審査プロセスも、研究者コミュニティの支援と貢献に依存しています。特に、サイクル8では分散型審査を採用し、さらに審査会もバーチャルで行う必要がありました。私たちは、この新しいプロセスに対するコミュニティの熱意と支援に感謝しています」と述べています。
「サイクル8」の観測提案募集は当初2020年に開始されましたが、新型コロナウイルスの世界的な蔓延によって延期され、2021年に改めて開始されました。今回の観測提案審査に当たっては、多くの注目すべき点がありました。
まず、パンデミックという難しい状況にあっても、世界中から数にして1,735件、要求観測時間合計は12mアレイで26,000時間以上の提案提出がありました。サイクル7での要求時間合計は19,148時間でしたから、大きく増加しています。12mアレイで提供可能な観測時間は4,300時間であり、大変高い競争率になっています。また、ACAへの観測要求も競争率は約5倍となっていて、過去の要求時間を大きく超えています。
また、観測提案を提出した研究者が別の観測提案を審査するという分散型審査システムが取り入れられたことで、過去にないほど多くの研究者が観測提案審査に参加しました。12mアレイで25時間以上、ACA単独観測モードで150時間以上を要求する観測提案に対しては、従来通り審査委員会形式での審査が行われました。1000名を超える研究者が協力して、アルマ望遠鏡の次の観測サイクルでの研究テーマを決めたということになります。
また審査に先入観が入り込むことを避けるため、審査員には提案者を伏せた形で提案書が配布されました。さらに提案書の中身でも提案者がわからないような工夫を研究者に求めました。誰が審査したかは提案者にも伏せられていますので、二重匿名形式となります。アルマ望遠鏡では初めて導入されました。
さらに、新型コロナウイルスの拡大を防止するため、審査会はオンラインで開催されました。
合同アルマ観測所のオブザーバトリー・サイエンティストを務めるジョン・カーペンター氏は、「提案審査過程を大きく変更したため、私たちはその結果を詳細に分析しています。私たちの目的は、審査結果の潜在的な偏りを検証し、審査者や提案チームからのフィードバックを慎重に検討することです。数ヶ月後には、分散型審査システムの詳細な分析結果を公開する予定です」とコメントしています。
二重匿名審査
これまでの観測サイクルで、アルマ望遠鏡では観測提案審査の結果を注視し、提案審査結果の系統的な変化を確認してきました。合同アルマ観測所は、審査におけるバイアスを減らし、すべての研究者にとって審査過程をできるだけ公平なものにするために、二重匿名審査を制定しました。
観測提案対応チームのリーダーであるアンドレア・コルビロン氏は、「研究者コミュニティの大多数が、新しいガイドライン沿って匿名化した観測提案を提出しました。審査員からの反響は非常に肯定的で、二重匿名にすることで審査プロセスがより公平になり、審査員は提案チームの名前に引っ張られることなく科学に焦点を当てることができると考えていました」と説明しています。
分散型審査
サイクル7におけるACA単独観測モードの追加観測提案募集で分散型審査を試験的に導入し、成功裏に終えることができました。このため、サイクル8からこれを拡大することになりました。今回は、12mアレイの要求観測時間が25時間以下のもの、またはACAの要求観測時間が150時間以下のものが分散型審査の対象となりました。サイクル8では、1,497件の観測提案に対して1,016名の天文学者が審査にあたりました。
カーペンター氏は、「分散型審査システムにより、コミュニティは2ヶ月間で延べ14,960回という驚異的な数の審査を完了させました。分散型審査は、従来の方法に比べて、審査プロセスに研究者コミュニティがより広く参加することを可能にします」と述べています。
今回は、67%の審査員が10件の観測提案を、23%の審査員が20件の観測提案を審査しました。審査は滞りなく進み、審査のためのソフトウェアの使いやすさについても広く評価されました。審査員からの貴重なフィードバックは、次のサイクルでの改善に役立たせる予定です。
審査委員会での審査
アルマ審査パネルと観測提案審査委員会はそれぞれ、6月21日~25日、6月29日~7月1日に開催されました。審査パネルでは、12mアレイの要求観測時間が25時間から50時間の提案について審査を行って順位表が作られたほか、これ以上の観測時間を要する「大規模観測計画」の絞り込みが行われました。絞り込まれた大規模観測計画は、各審査パネルの座長などからなる観測提案審査委員会に送られ、最終的な審査が行われました。
審査結果
サイクル8では、1,735件のプロポーザルが提出され、要求時間の合計は12mアレイで26,325時間、ACA 7mアレイで14,846時間、ACA トータルパワーアレイで13,802時間となりました。サイクル8の観測提案数はサイクル7(1,773件)と同程度ですが、要求時間は12mアレイで37%増加しています。また、ACAによる観測要求時間も大幅に増加しており、ACA 7-mアレイでは67%、トータルパワーアレイでは99%の増加となっています。その結果、サイクル 8の観測提案競争率は、アルマ望遠鏡にとって最初の観測シーズンであったサイクル0を除いて最も高いものとなりました。非常に競争の激しいサイクルとなったことから、多くの優れた観測提案がスケジュールに入れられませんでした。全体では、15%の観測提案が優先グレードAまたはBで採択されました。
いくつかの委員会からの助言を受け、アルマ望遠鏡はサイクル8において、より大規模で野心的な提案を奨励しました。以前は、大規模観測計画に割り当てられる時間の上限(15%)が設けられていましたが、これは撤廃されました。代わりに、今回は12mアレイで25時間以上の観測を希望する提案に対して、観測時間全体の10%以上を割り当てることが決まりました。このような変更に対して、コミュニティからは大きな反響がありました。大規模観測計画の申請数は、サイクル7の14件からサイクル8では40件に増加し、そのうち6件が採択されました。また、12mアレイを使った25時間以上50時間未満の観測提案の申請数は97件から198件に増加しました。
合同アルマ観測所科学運用部門の責任者であるエリザベス・ハンフリー氏は、サイクル8の観測計画のラインナップを確認した後、「10月1日から新しいプロジェクトの観測を開始します。このサイクル8で、コミュニティがどんな素晴らしい発見をしてくれるのか、私たちはとても楽しみです」と述べています。
合同アルマ観測所は、こうした新しい観測提案審査プロセスによって、カーボンフットプリントを削減しつつ先入観を排除し高いレベルの審査を実現することができると考えています。
より詳しい統計情報は、アルマ望遠鏡サイエンスポータルに掲載されています。
アルマ望遠鏡の建設と運用は、欧州南天天文台(ESO)がその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。