ダークマターの大海原に浮かぶ巨大な原始銀河

ビッグバンから数億年ののちに存在した生まれたばかりの銀河は、現代の矮小(わいしょう)銀河と共通点が多いだろうと天文学者たちは考えています。数十億個の星々が集まった原始銀河が、互いに合体することでより大きな銀河となったというのです。

しかしアルマ望遠鏡による最新の観測によって、予想外の発見がありました。宇宙誕生から10億年もたたない時代に、非常に巨大な銀河が見つかったのです。これは銀河の構成要素となる小さな星の集団が、予想以上に短い時間で合体していくことを示しています。

アルマ望遠鏡が発見したのは、宇宙誕生からおよそ7億7000万年が経過した時代に存在した、2つの巨大銀河です。宇宙が現在の年齢のわずか5%であったころに、巨大銀河の形成が進んでいたことになります。しかもこの巨大銀河は、さらに巨大なダークマター(暗黒物質)の集まりの中にあることもわかりました。その質量は、太陽数兆個分にも及びます。

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アルマ望遠鏡で発見された宇宙初期の巨大銀河ペアの想像図
Credit: NRAO/AUI/NSF; D. Berry

今回発見された2つの巨大原始銀河は、互いにとても近い距離にあります。その距離は、地球と天の川銀河中心までの距離(約26,000光年)よりも近いものです。この2つの巨大銀河はほどなく合体し、この時代で発見されたものとしては史上最大の銀河になると考えられます。この発見は、巨大銀河の誕生と宇宙における巨大構造形成におけるダークマターの役割の解明に重要な手がかりを与えてくれることでしょう。

「アルマ望遠鏡を使った素晴らしい観測により、宇宙最初の10億年、つまり銀河が形作られる時期のもっとも重い銀河を見つけることができました。」と、科学誌ネイチャーに掲載された論文の筆頭著者であるダン・マローン氏(アリゾナ大学)は語っています。

天文学者たちが見ているのは、「宇宙の再電離」と呼ばれる時代にある銀河です。この時期には、星などが放つ紫外線によって宇宙を満たしていた水素ガスが電離され、霧が晴れていくような現象が起きたと考えられています。私たちが住む現在の宇宙は電離されているため、「宇宙の再電離」期は現在の宇宙を形作る重要な時期といえます。

「小さな銀河が周囲のガスを少しずつ少しずつ電離していく、というのが、宇宙の再電離期に対して私たちが持っていたイメージでした。しかしアルマ望遠鏡の観測成果に基づけば、このイメージは再構築しなくてはいけません。ほんとうに巨大な銀河が、宇宙の最初期から存在していたようなのです。」と、マローン氏は語っています。

研究チームが今回観測したのは、南極点望遠鏡で発見されたSPT0311-58と呼ばれる天体です。南極点望遠鏡の観測ではこの天体はひとつに見え、また非常に遠くにあって赤外線を強く出していることが明らかになりました。これは、この銀河には塵がきわめて多く、爆発的に星形成が進んでいることを示唆しています。アルマ望遠鏡による詳細観測によってこの銀河までの距離が正確に求められただけでなく、実は衝突しつつある2つの銀河であることがわかりました。

Galaxy Growth in a Massive Halo in the First Billion Years of Cosmic History

今回観測されたSPT0311-58の観測画像。アルマ望遠鏡の画像を赤、ハッブル宇宙望遠鏡の画像を青と緑で合成しています。右側の銀河の像は重力レンズによってゆがめられています。重力レンズの原因になっている手前の銀河は、アルマ望遠鏡がとらえた2つの銀河の間に緑色で見えています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Marrone, et al.; B. Saxton (NRAO/AUI/NSF); NASA/ESA Hubble

この観測では、重力レンズ効果を利用することでより高い解像度を実現しています。重力レンズとは、遠くの天体と私たちの間に巨大な重力を持つ天体(銀河や銀河団)があるとき、遠くの天体からの光が曲げられる現象を指します。この時、遠くの天体の像はゆがんで見えますが、先進的なコンピュータモデリングによってその効果を補正し、ゆがみのない画像を再構築することができます。

この「再構築」によって、銀河の詳細な構造を描き出すことが可能になります。今回の研究によれば、2つの銀河のうちの大きいほうの銀河では1年間に太陽2900個分もの星が誕生していると考えられます。私たちが住む天の川銀河では1年に太陽数個程度の星しか生まれていませんので、星形成活動が極めて活発だといえるでしょう。また、この銀河に含まれるガスの総質量は太陽2700億個分、塵の総質量は太陽30億個分にも及びます。天の川銀河の質量はおよそ太陽1000億個分といわれていますので、この銀河はとても巨大であることがわかります。「この銀河がとても若いことを考えると、この塵の量は途方もない値です。」と、テキサス大学研究員のジャスティン・スピルカー氏は語っています。

研究チームは、この銀河が猛烈な勢いで星を作っているのは、少し小さな隣の銀河と近接遭遇しているからだと考えています。小さいほうの銀河に含まれる星の総質量は太陽350億個分で、1年間に太陽540個分の星を作り出しています。

この時代の銀河は、私たちのまわりにある銀河ほど整った形をしていなかったと研究者たちは考えています。それは、銀河の周囲からガスが大量に降り積もってきたり、周囲の銀河の衝突合体を繰り返していたりしたことによるものです。

今回の観測で、2つの銀河を取り巻く巨大なダークマターの集合体(ダークマターハロー)の存在も示唆されました。ダークマターは重力を及ぼすことによって、銀河や銀河団といった構造を宇宙の中に作り出したと考えられています。

ニューヨーク・フラットアイアン研究所計算天体物理学センターのクリス・ヘイワード氏は「ある銀河が現代宇宙論の理解に沿ったものであるかどうかを判断するには、ダークマターハローを調べることになります。幸運にも、宇宙全体でのダークマターと普通の物質の質量比率はよく知られていますので、物質の量がわかればダークマターがどれくらいあるか推測できるのです。」とコメントしています。

彼らの計算結果と現在の宇宙論的な予測を比較すると、今回観測されたダークマターハローは、この時代でもっとも大質量なもののひとつであることがわかりました。

「南極点望遠鏡で発見された銀河のうち、私たちが追観測を行っているターゲットはほかにもたくさんあります。そして、処理を開始したばかりのサーベイデータももっとたくさんあります。今回発見されたような天体をいくつも、しかももっと古い時代のものを見つけることで、塵に覆われた巨大星形成銀河と他の銀河との関係をよりよく理解したいと願っています」と、ホアキン・ヴィエイラ氏(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校)はコメントしています。

「いずれにしても次のアルマ望遠鏡の観測では、これらの銀河がどれくらい早く形作られるのか理解し、宇宙再電離期における巨大銀河の理解を進めることができるでしょう」とマローン氏は期待を述べています。

この研究成果は、Marrone et al. “Galaxy Growth in a Massive Halo in the First Billion Years of Cosmic History”として、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」に2017年12月に掲載されます。

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