ガス雲を振り回す野良ブラックホール -天の川銀河中心近傍に潜む中間質量ブラックホールのより確かな証拠

国立天文台の竹川俊也特別研究員と慶應義塾大学の岡朋治教授らの研究チームは、天の川銀河中心核「いて座A*」の近傍に発見された特異分子雲をアルマ望遠鏡を用いて詳細に観測し、それが軌道回転運動(公転)している複数のガス流の複合体であることを突き止めました。さらに軌道解析の結果、その回転中心には太陽質量の約3万倍にもおよぶ「見えない質量」-中間質量ブラックホール-が潜んでいると結論づけました。この成果は、天の川銀河中心を漂う中間質量ブラックホールのより強い存在証拠を得たとともに、これまで発見が困難であった暗い「野良ブラックホール」を探し出す新手法を提示したものといえます。

現在、存在が確認されているブラックホールは2種類あります。太陽の数倍から十数倍の質量を持つ軽いブラックホール(恒星質量ブラックホール)と、太陽の100万倍~100億倍にも及ぶ質量を持つ超大質量ブラックホールです。恒星質量ブラックホールは、太陽の30倍よりも重い恒星が燃え尽きて自重を支えきれなくなり、超新星爆発を起こして最期を迎える時に形成されます。いわば星の死骸です。超大質量ブラックホールは、多くの銀河の中心に核として存在することがわかっています。私たちの住む天の川銀河(銀河系)もその例外ではなく、太陽系から約2万5千光年離れた距離にある中心核「いて座A*」には、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが潜んでいることが知られています。しかしながら、この超大質量ブラックホールの起源はまだ解明されておらず、宇宙における大きな謎の一つです。

 近年の重力波 [1] 非軸対象の物体が動くことで、時空の歪みが光速で波として伝搬する現象。ブラックホールの存在と同じく、アインシュタインの一般相対性理論により予言され、その検出は「アインシュタインの最後の宿題」といわれていました。一般相対性理論が完成したちょうど100年後の2016年に初検出が公表され、その発生源がブラックホール同士の合体であることが突き止められました。の検出が示したように、ブラックホール同士は合体することで大きくなります。また、周囲の物質を飲み込むことでも成長します。つまり、超大質量ブラックホールは、ブラックホールが周りの物質を大量に飲み込んだり、他のブラックホールとの合体を繰り返したりすることで成長してきたと推論できます。しかし、超大質量ブラックホールより軽く恒星質量ブラックホールより重い、中間の質量(太陽の100倍から10万倍程度の質量)を持つ「中間質量ブラックホール」は、これまでにいくつか報告例はあるものの、まだその存在は裏付けられておらず大きな論争を巻き起こしています。中間質量ブラックホールはいわばブラックホール界のミッシングリンクであり、超大質量ブラックホールの起源解明の鍵でもあるため、その発見は天文学において極めて重要な意味を持ちます。

 研究チームは、東アジア天文台のJames Clerk Maxwell Telescope(JCMT)を用いた2016年の観測から、天の川銀河の中心核「いて座A*」から約20光年離れた位置に、小型な特異分子雲HCN–0.009–0.044を発見しました。一般に分子雲は、大局的には銀河回転に従って中心核周りを運動するのですが、この分子雲HCN–0.009–0.044は銀河回転に逆行するような異質な挙動を示していました。不自然な方向に局所的に加速を受けたようなその運動から研究チームは、そこには暗い「野良ブラックホール [2] ブラックホールに落下する物質は、ブラックホール周りに降着円盤と呼ばれる構造を形成します。一般に、降着円盤は加熱されて光り、降着円盤に堆積する物質の量が多いほど明るく輝きます。すなわち、ブラックホールが「大食い」であるほど降着円盤は明るくなります。一方で、あまり物質が供給されないブラックホールは、明るい降着円盤を持たず、当然ブラックホールそのものも光を発することはないので、発見は困難です。このように、「食料」が十分に与えられていない孤立したブラックホールのことを研究チームは「野良ブラックホール」と呼んでいます。」が潜んでおり、分子ガスとの重力相互作用の結果としてHCN–0.009–0.044が生じたという可能性を指摘していました。

 今回、研究チームはHCN–0.009–0.044の正体を突き止める目的で、アルマ望遠鏡を用いて高解像度のサブミリ波帯スペクトル線観測を実施しました。その結果、それまで不明瞭であったHCN–0.009–0.044の詳細な構造と内部運動が明らかになりました(図1)。JCMTによる発見時は、小さな一つの分子雲と考えられていたものが(図1(a))、アルマ望遠鏡により実は複数の構造から成る(図1(b))ということが判明しました。視野の中心に気球のような形をした構造(バルーン)があり、向かって左側には南北に伸びる細長い構造(ストリーム)があることがわかります。これらの運動状態は、ドップラー効果による周波数の変化から求められる視線方向での速度(視線速度)から推測できます。各位置での視線速度を色で表したものが図1(c)です。この図を見ると、バルーンは北側から南側にかけて時計回りに、ストリームは南側から北側にかけてやや湾曲しながら、それぞれ連続的に速度が変化している様子がわかります。このような速度の変化パターンは、軌道回転運動をしている天体に典型的なものです。また、軌道回転運動を生み出すには「引力」が必要です。すなわち、バルーンやストリームの運動は「見えない重力源」の存在を強く示唆しています。

Takekawa_fig1

図1
(a) JCMTで観測された特異分子雲HCN–0.009–0.044のシアン化水素(HCN)354.6 GHzスペクトル線強度図。雲の広がりに対して解像度が足りず、単一の構造に見えている。
(b) アルマ望遠鏡で観測された同スペクトル線強度図。HCN–0.009–0.044の内部構造が非常に詳細に描き出されている。
(c) 視線速度分布図。HCN–0.009–0.044の系統的な視線速度は約–50 km/s (黄緑)であり、それに対して遠ざかる速度を赤色側、近づく速度を青色側で示している。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Takekawa et al.

さらに研究チームは、観測データに基づいてバルーンとストリームの三次元軌道を決定し、その軌道運動をつくる重力源の質量を算出することに成功しました。解析の結果、バルーンとストリームは共通の重力源を中心とした2つの異なった楕円軌道上を運動しており、その重力源の質量は太陽のおよそ3万倍ということがわかりました(図2)。バルーンの軌道と重力源との最小距離は0.2光年程度です。すなわち、0.2光年よりもずっと小さな領域に、太陽の3万倍にも及ぶ莫大な質量が詰まっているということになります。これほどに超大な質量密度を有する天体はブラックホールと考えるのが自然です。また、同方向には明るい天体が検出されず、例えば超高密度な星団を重力源として考えるのは困難です。以上より、HCN–0.009–0.044の中には太陽の3万倍の質量を持った「中間質量ブラックホール」が潜んでいると結論できます。

この結果は、これまでの観測結果とは異なり、ブラックホール周辺のガス雲の運動が詳細にわかったことで得られたもので、中間質量ブラックホールのより確かな証拠を掴んだと言えるでしょう。

Takekawa_fig2

図2
(a) 観測された視線速度分布図。ただし、解析時にノイズの影響を減らすために平滑化処理をしたデータを用いて作成した(図1(c)は平滑化処理をしていない)。
(b) バルーンとストリームの位置—速度情報を基にモデル化された視線速度分布図。観測結果(a)を非常によく再現していることがわかる。2つの楕円はそれぞれバルーンとストリームの運動軌道を示し、赤い星印はブラックホールの位置を示す。モデルの最適値として得られたブラックホールの質量は約3万太陽質量、視線速度は約–49.5 km/sである。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Takekawa et al.

本研究により、「見えない質量」を取り囲むガス雲の明瞭な軌道運動を検出することに成功し、その質量が太陽の約3万倍と求められたことで、中間質量ブラックホールのより確かな存在証拠を掴むことができました。本研究成果は、以下に挙げる2つの点で大きな意義があります。1つは、中間質量ブラックホールを天の川銀河中心核「いて座A*」の近傍(約20光年の距離)に発見したという点です。この中間質量ブラックホールは将来的には中心核の超大質量ブラックホールに飲み込まれ、その成長に寄与する可能性があります。中間質量ブラックホールは超大質量ブラックホールの起源解明や銀河進化の理解の鍵であり、発見そのものに重要な意義があります。

 そしてもう1つの意義は、今回発見されたブラックホールは「暗い」という点です。これまでに天の川銀河内には数十個のブラックホールが検出されてきましたが、そのほとんどは伴星 [3] 二つの恒星が互いの重力で引き合い、両者の重心周りを軌道回転運動している天体を「連星」といい、一般に明るい方の星を「主星」、暗い方の星を「伴星」と呼びます。連星のパートナーとしては恒星だけではなく、中性子星やブラックホールの場合もあります。を持つブラックホール連星で、降着円盤が明るく輝いていたものです。理論予測によれば、天の川銀河内には大小含め少なくとも1億個以上のブラックホールがあるとされています。すなわち、天の川銀河内のブラックホールのほとんどは、伴星からの物質供給が十分でないため暗く、それゆえに、降着円盤からの明るい放射を検出するという従来の方法では発見が困難です。しかし、今回のように強い重力により振り動かされたガス雲を検出するという試みは、暗いブラックホールの探査にも有効な手段です。研究チームはこれまでにも、天の川銀河の中心核から約200光年の位置に十万太陽質量を持つ中間質量ブラックホール候補天体を発見しています。本研究と同様に、異常な速度を持つ分子ガス雲に注目していくことで、今後続々とブラックホール候補天体が発見されることが期待されます。これら一連の研究は、ブラックホール探査の新境地を開く礎となり得る先駆的なものです。

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図3 ガス雲を振り回す中間質量ブラックホールの想像図
Credit: 国立天文台

論文・研究チーム
この観測成果は、Takekawa et al. “Indication of Another Intermediate-mass Black Hole in the Galactic Center”として、2019年1月20日発行のアメリカの天文雑誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
竹川俊也(国立天文台野辺山宇宙電波観測所)、岡朋治(慶應義塾大学)、岩田悠平(慶應義塾大学)、辻本志保(慶應義塾大学)、野村真理子(東北大学)

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1. 非軸対象の物体が動くことで、時空の歪みが光速で波として伝搬する現象。ブラックホールの存在と同じく、アインシュタインの一般相対性理論により予言され、その検出は「アインシュタインの最後の宿題」といわれていました。一般相対性理論が完成したちょうど100年後の2016年に初検出が公表され、その発生源がブラックホール同士の合体であることが突き止められました。
2. ブラックホールに落下する物質は、ブラックホール周りに降着円盤と呼ばれる構造を形成します。一般に、降着円盤は加熱されて光り、降着円盤に堆積する物質の量が多いほど明るく輝きます。すなわち、ブラックホールが「大食い」であるほど降着円盤は明るくなります。一方で、あまり物質が供給されないブラックホールは、明るい降着円盤を持たず、当然ブラックホールそのものも光を発することはないので、発見は困難です。このように、「食料」が十分に与えられていない孤立したブラックホールのことを研究チームは「野良ブラックホール」と呼んでいます。
3. 二つの恒星が互いの重力で引き合い、両者の重心周りを軌道回転運動している天体を「連星」といい、一般に明るい方の星を「主星」、暗い方の星を「伴星」と呼びます。連星のパートナーとしては恒星だけではなく、中性子星やブラックホールの場合もあります。

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