太陽は、約46億年前に塵(ちり)とガスの雲の中で誕生しましたが、その誕生に磁場が深く関係していたかもしれません。実際、磁場が星の形成過程にどのような影響を与えているのか、科学者たちの議論が続いています。特に、最も質量の大きい星の形成過程は、まだ謎だらけです。科学者たちは、長年、磁場が大質量星の形成過程に不可欠であると考えていました。しかし、この理論を証明するにも反証するにも、限られた数の観測的証拠しかありませんでした。
国立天文台のパトリシオ・サヌエーサ氏率いる国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使ってこの長年の問題に取り組みました。研究チームは、地球から7600光年の距離にあるIRAS 18089-1732と呼ばれる大質量星形成領域を観測し、渦巻き状の磁場構造を発見しました。しかし予想に反して、この磁場は、別の基本的な力である「重力」に圧倒されていたのです。
「このような極端な環境では、重力がガスの形態を決めエネルギー収支を支配することができるのです」とサヌエーサ氏はコメントしています。さらに研究チームは、原始星が重力によってガスを引き付けることで、原始星周囲の磁力線がねじれていることを発見しました。
別の星形成環境を観測した先行研究では、磁場が重要な役割を担っているという証拠を発見したことがありました。そのため、磁場の寄与が小さいという今回のアルマ望遠鏡による観測結果は研究チームにとって驚きでした。今回のアルマ望遠鏡の発見は、大質量星形成過程の多様性を明らかにしたものといえます。さまざまな力の相互作用を私たちが地球上で経験しているように、大質量星は、磁場が強い環境でも弱い環境でもさまざまな力の相互作用を感じながら形成されうるものであるということが、やや予想外ながら明らかになったのです。
この研究成果は、Patricio Sanhueza et al. “Gravity-driven Magnetic Field at 1000 au Scales in High-mass Star Formation”として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に2021年6月30日付で掲載されました。