令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞をアルマ望遠鏡の研究者2名が受賞

アルマ望遠鏡の研究者が、令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。受賞したのは、以下の2名です。

 

受賞者名:小嶋崇文(国立天文台先端技術センター 准教授)
受賞業績:電波天文用受信機の高感度化および広帯域化に関する研究

受賞者名:橋本拓也(筑波大学数理物質系 助教)
受賞業績:電離酸素の輝線を用いた様々な最遠方銀河の観測的研究

 

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令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞した小嶋崇文氏(左)と橋本拓也氏(右)
Credit: 国立天文台、筑波大学

 

小嶋崇文氏は、アルマ望遠鏡に搭載する受信機の開発研究をリードしています。宇宙から届く電波は非常に微弱なため、電波望遠鏡に搭載される受信機は非常に高い感度を持つ必要があります。また、多様な分子が様々な周波数で放射する電波をとらえるため、できるだけ広い周波数帯域の電波を一度にキャッチできることも重要な要素です。小嶋氏は、アルマ望遠鏡で最も高い周波数の電波を観測する「バンド10」受信機の開発に貢献したのに加えて、超伝導受信機の中核となる「超伝導ミキサ」の研究を続けています。小嶋氏は、現行のアルマ望遠鏡受信機より4倍も広い周波数帯域が一度に観測可能で、かつ感度も向上させた新しい受信機を開発中であり、その性能は既に実験室で実証されています。この開発は、アルマ望遠鏡の性能向上のための重要なステップであり、アルマ望遠鏡が目指す惑星形成過程の理解や生命素材物質の理解の飛躍的向上、宇宙における元素合成の開始地点の探究など、天文学における重要な科学目標の達成に大きく寄与することが期待されます。

小嶋氏は今回の受賞にあたり「このような栄えある賞を賜り、身に余る光栄に存じます。本研究の実施にあたりご指導・サポートしてくださったすべての方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。特に、高い技術力を有する複数名の研究パートナーとの緻密で地道な研究活動が本成果につながったと考えております。本研究では鍵となる技術の発案・実証ができましたが、次世代アルマ望遠鏡への実装に対しては道半ばです。今後も精進して研究開発活動に励んでまいります。」とコメントしています。

橋本拓也氏は、アルマ望遠鏡を用いて遠方銀河の研究を行っています。橋本氏は、特に宇宙年齢が10億年未満の時代に存在していた超遠方銀河を主なターゲットとしていますが、従来は望遠鏡の感度不足などから、こうした銀河からの光を分光して性質を詳しく調べることは困難でした。そこで橋本氏は、高い感度を持つアルマ望遠鏡を用い、特に酸素イオンが放つ光を手がかりにした超遠方銀河の観測手法を確立しました。この手法を用いて、研究発表当時(2018年5月)に観測史上最遠記録を打ち立てた132億8000万光年かなたの銀河や、合体銀河としては最遠方である131億光年彼方の銀河の観測に成功し、アルマ望遠鏡を用いた超遠方銀河研究の世界的潮流を作り上げるとともに、宇宙初期における銀河の誕生と進化の理解に大きく貢献しました。

橋本氏は、「このたびは素晴らしい賞を頂き、大変嬉しく思います。これも共同研究者の皆様、アルマ望遠鏡に携わる皆様をはじめ、これまで関わってくださった全ての方々のおかげです。この研究をしていた当時を振り返ると、今でもデータ解析の末に超遠方銀河からの信号を目にした時の感動と興奮が、ありありと蘇ってきます。その日は興奮で良く眠れなかったほどです。そして、その信号が酸素イオンの放つ光だと分かってからは、国内外の共同研究者と白熱した議論を幾度も交わし、より良い論文を作った素晴らしい日々を懐かしく思います。現在では、私たちに限らず多くの研究者が、アルマ望遠鏡と酸素イオンが放つ光の組み合わせを活用して遠方銀河を調べています。一分野を開拓できたことは、研究者冥利に尽きます。これからも、多くの方々と共に面白い研究をして天文学の発展に微力ながら貢献して参りますので、温かい応援をよろしくお願いします。」と、受賞の喜びを語っています。

 
参考:
・2018年5月17日発表のプレスリリース「アルマ望遠鏡、132.8億光年かなたの銀河に酸素を発見 ―酸素の最遠方検出記録をさらに更新
・2019年6月18日発表のプレスリリース「アルマ望遠鏡、観測史上最遠の合体銀河の証拠をとらえた

 

なお、アルマ望遠鏡関連ではこれまでに文部科学大臣表彰を3度受賞しています。(肩書はすべて当時のもの)

平成23年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
 受賞者名:鵜澤佳徳(国立天文台 准教授)、藤井泰範(国立天文台 技術員)、王鎮(情報通信研究機構 グループリーダー)
 受賞業績:窒化ニオブ系超伝導体によるテラヘルツ検出技術の先駆的研究

 

平成25年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)
 受賞者名:石黒正人(国立天文台 名誉教授)、長谷川哲夫(国立天文台 教授)、井口聖(国立天文台 教授)
 受賞業績:高精度天体画像観測を可能にする開口合成型電波望遠鏡の研究

 

平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)
 受賞者名:齋藤正雄(国立天文台 准教授)、水野範和(国立天文台 准教授)、川口昇(三菱電機株式会社通信機製作所 主管技師長)、大島丈治(三菱電機株式会社通信機製作所 プロジェクト部長)、井口聖(国立天文台教授)
 受賞業績:超高精度サブミリ波望遠鏡ALMAアンテナの開発

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