アルマ望遠鏡のための高精度アンテナ開発チームが、平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門) を受賞しました。受賞者と業績名は以下の通りです。
受賞者:
・齋藤正雄 国立天文台/総合研究大学院大学 准教授・野辺山宇宙電波観測所長
・水野範和 国立天文台准教授
・川口昇 三菱電機(株)通信機製作所 主管技師長
・大島丈治 三菱電機(株)通信機製作所 プロジェクト部長
・井口聖 国立天文台/総合研究大学院大学教授・東アジア アルマプロジェクトマネージャ
業績名:
超高精度サブミリ波望遠鏡ALMAアンテナの開発
アルマ望遠鏡アンテナは、波長の短いサブミリ波(波長1mm以下)を効率よく受信するために、高い鏡面精度と追尾精度が要求されます。しかしアルマ望遠鏡ではアンテナ配置を頻繁に変更して様々な観測を行うため、アンテナを厳しい自然環境から守る建物に入れることはできません。日光や風が直接当たり、温度変化も大きい場所でも十分な精度を保って運用できるアンテナを開発することは、容易ではありませんでした。そこでアンテナ開発チームは、温度変化や風によるアンテナの変形を直接計測しリアルタイムで補正するシステム(メトロロジーシステム)を新たに考案し、1/6000度の追尾精度を実現しました。また12mアンテナでは温度変化による伸縮の少ないカーボンファイバーを骨組みに使ったり、7mアンテナでは主鏡面を支える構造体の内部に風を通して温度ムラを軽減する仕組みを採用したりすることにより、重力変形や熱による変形を抑制し、誤差20ミクロン以下という高い精度の鏡面を実現しました。こうした革新的な技術により、遠方にある天体からやってくる微弱なサブミリ波を効率よく集め、銀河の誕生や惑星系の誕生、そして生命の起源に迫る観測結果が期待されるアルマ望遠鏡の運用に寄与することができました。
今回の受賞に際して、齋藤正雄氏は「今回たまたま私が代表者になりましたが、国立天文台アンテナ開発チーム、三菱電機技術者など多くの関係者への受賞と思っています。技術的困難を乗り越えるため、議論を戦わせながらも収束せず、憔悴した夜もありました。しかし、性能測定データがアンテナの高い追尾精度、高精度の鏡面を示した時、その苦労は吹き飛びましたね。これらの超高精度アンテナが現在も高性能を維持し多くのすばらしい科学的成果を生みだしていることを誇りに思っています。」と語っています。国立天文台との密接な協力関係のもとにアンテナの開発にあたった三菱電機の川口昇氏は「このような栄誉を頂き、大変ありがとうございます。この受賞はACAの開発設計に携わり、様々な難問を知恵と技術力を結集して諦めることなくチャレンジし、仕様をクリアしてきた設計者全員の代表として表彰されたものと思っています。微力ながら自然科学の発展に少しでも貢献できたことを我々設計者一同大変喜んでいます。これからも、素晴らしい発見を期待しております。」とコメントしています。また三菱電機の大島丈治氏は「たいへん名誉な賞を賜り心より感謝申し上げます。日本の底力を!をスローガンに関西を中心とした80社以上の企業の協力を得て、幾多の苦難を乗り越え、歴史に刻まれる世界最高性能の望遠鏡を開発することができました。関わった全てのメンバーと今回の受賞の喜びを分かち合いたいと思います。近い将来、アルマ望遠鏡により宇宙創成の謎、生命誕生の謎が解き明かされることを心待ちにしております。」とコメントしています。
アルマ望遠鏡アンテナ開発については、『史上最高のアンテナを作る』と題して主鏡部前編 、主鏡部後編 、架台部編 の3本の記録映像で紹介しています。
国立天文台野辺山宇宙電波観測所のニュース では、齋藤正雄氏のインタビューも掲載されています。
なお、国立天文台のアルマ望遠鏡プロジェクトとしては、文部科学大臣表彰をこれまでに2度受けています。
平成23年度:窒化ニオブ系超伝導体によるテラヘルツ検出技術の先駆的研究
受賞者:鵜澤佳徳、藤井泰範(国立天文台先端技術センター)、王鎮(情報通信研究機構)
平成25年度:高精度天体画像観測を可能にする開口合成型電波望遠鏡の研究
受賞者:石黒正人、長谷川哲夫、井口聖(国立天文台チリ観測所)
写真は今回の受賞者(左から、齋藤正雄 准教授、水野範和 准教授、井口聖 教授、川口昇氏、大島丈治氏)です。