太陽系の歴史を振り返る:若い星HD107146の塵円盤の観測

米国ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのルカ・リッチ氏が率いる研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて年齢およそ1億歳の若い星HD 107146を取り巻く塵の円盤(デブリ円盤)を観測しました。その結果、円盤の外縁部にミリメートルサイズの塵が大量に存在していることを発見しました。その場所は中心星から130億km(太陽から海王星までの距離の約3倍)にも達します。この塵は、小さな天体が衝突して冥王星サイズの天体(微惑星)が作られる際にまき散らされたものではないかと研究グループは考えています。

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画像1. HD107146の周囲のデブリ円盤の想像図。冥王星サイズの天体の重力によって周囲の小さい天体が互いに衝突し、塵をまき散らしている様子が描かれています。
Credit: A. Angelich (NRAO/AUI/NSF)

若い星の周囲に見られるデブリ円盤は、惑星形成の名残と考えられています。デブリ円盤を構成する塵は、彗星や小惑星などの小さな天体が継続的に衝突・破壊されることで作られます。一方、惑星形成が完了した太陽系のような惑星系では、デブリ円盤ほど多くの塵は存在していません。このあいだの期間、つまり惑星系が進化していく間には、円盤の外縁部に塵が濃集するという理論予測がありました。今回アルマ望遠鏡による観測で写しだされたのは、まさにこの塵です。

「HD107146のまわりの塵は非常に興味深いです。円盤の外縁部に行くほど濃くなっているのです。」とリッチ氏は語ります。「面白いことに、もっと若い星のまわりでは、塵は星に近い場所のほうが濃いのです。私たちが観測したHD107146では、星に近いあたりでは惑星形成はほぼ完了しているものの、外縁部では今まさに天体が衝突・合体を繰り返して微惑星が形成されつつあるのだと思います。」

アルマ望遠鏡による観測データからは、もう一つ興味深い構造が浮かび上がってきました。それは、円盤の中に幅12億kmにわたって塵が少ない領域があることです。研究チームは、これは地球程度の大きさの惑星が周囲の塵を掃き集めた結果作られたものではないかと考えています。これは、地球型惑星の形成過程を考えるうえでも重要な発見です。

「形成期から成熟期に移行しつつある惑星系の観測において、アルマ望遠鏡は非常に重要な役割を果たします。」と、共同研究者で合同アルマ観測所副所長を務めるスチュアート・コーダー氏は語ります。「アルマ望遠鏡の高い感度と解像度により、こうした天体を定常的に観測することができるのです。」

HD107146は、かみのけ座の方向90光年という非常に近距離にある星です。この星は、太陽系の若い頃に似ているのではないかと天文学者たちの注目を集めてきました。さらに、惑星形成の段階からより安定で成熟した惑星系へと進化している途中の段階にあるという点でも注目されています。「この星を観測することで、太陽系の年齢が現在の2%だったころのようすを振り返ることができるのです。」とコーダー氏はその意義を語ります。


この研究成果は、L. Ricci et al . “ALMA observations of the debris disk around the young Solar Analog HD 107146″として、天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。

下の画像は、アルマ望遠鏡が観測したHD107146の周囲のデブリ円盤です。中心に星があり(この画像には写っていません)、そのまわりを取り巻く塵の分布が写し出されています。円盤の中ほどには塵が少ない領域があり、ここに惑星が存在しているのではないかと研究者たちは推測しています。
Credit: L. Ricci ALMA (NRAO/NAOJ/ESO); B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

Tags : 観測成果

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