アルマ望遠鏡が、最近起きた超新星爆発で作られた大量のフレッシュな固体微粒子(ダスト)を初めて発見しました。こうした固体微粒子が星間空間に広がっていくとすれば、多くの銀河に含まれる大量の固体微粒子の起源を説明できると期待されています。
数千億の星が集まる銀河には、大量の固体微粒子が含まれています [注1]。こうした固体微粒子は、星の一生の最後の爆発である超新星爆発によって生み出されると考えられています。しかしこれまで超新星爆発の残骸(超新星残骸)で固体微粒子が直接検出された例はなく、多くの銀河に含まれる固体微粒子の起源については謎のままになっていました。しかし、高い性能を持つアルマ望遠鏡によってこの謎が解かれようとしています。
「私たちは、爆発したばかりの超新星残骸の中心部に大量の固体微粒子を発見しました」と、米国立電波天文台/バージニア大学の天文学者レミー・インデベトー氏は語っています。「固体微粒子が作られているところを直接観測したのは今回が初めてのことです。これは銀河の進化を考えるうえでも重要な発見です。」
国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使って超新星1987A [注2] の残骸を観測しました。超新星1987Aは地球から16万光年離れたところにある矮小銀河「大マゼラン雲」の中にあります。1604年にヨハネス・ケプラーが天の川銀河の中に超新星を発見しましたが、超新星1987Aはそれ以降では最も私たちの近くで発生した超新星爆発です。
理論研究によれば、超新星爆発のあとでガスが冷えていくと、超新星残骸の中心部で酸素や炭素、窒素の原子が結合し、固体微粒子が作られると考えられます。しかし、超新星1987Aの爆発から500日後に行われた赤外線観測では、ごく微量の固体微粒子しか発見されていませんでした。
アルマ望遠鏡の高い感度により、今回の観測ではミリ波・サブミリ波を強く発する冷たい固体微粒子が大量に発見されました。また高い解像度(視力)を持つアルマ望遠鏡により、その固体微粒子が超新星爆発が起きた場所の中心近くに密集していることもわかりました。研究チームの見積もりによれば、今回見つかった固体微粒子の質量は太陽の質量の25%にも達します。一酸化炭素分子や一酸化ケイ素分子もあわせて大量に発見されました。
超新星1987Aのアルマ望遠鏡による電波観測結果(赤)、ハッブル宇宙望遠鏡による可視光観測結果(緑)、チャンドラX線望遠鏡による観測結果(青)を合成した画像です。アルマ望遠鏡の観測結果から、電波を強く放つ固体微粒子が中心部に密集していることがわかります。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/A. Angelich. Visible light image: the NASA/ESA Hubble Space Telescope. X-Ray image: The NASA Chandra X-Ray Observatory
画像:超新星1987Aの想像図。中央の赤い部分が、今回アルマ望遠鏡で観測された固体微粒子のあつまりを表す。その周囲には、衝撃波と衝突してリング状に輝く星間物質が描かれている。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Alexandra Angelich (NRAO/AUI/NSF)
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「超新星1987Aは、固体微粒子の観測をするうえで最適なターゲットです。それは、爆発からまだあまり時間がたっていないため、超新星のまわりにもともと存在していた固体微粒子とまだ混じりあっていないと考えられるからです。今回検出された固体微粒子は、その場で作られたものだと言えます。」とインデベトー氏は語ります。「今回のアルマ望遠鏡の観測により、作られて20年ほどしか経っていない『できたて』の大量の微粒子を初めて検出することができたのです。」
しかし、超新星爆発は固体微粒子を作り出すだけでなく、壊す場合もあります。
超新星爆発の際に生じる衝撃波が宇宙空間に広がっていくと、衝撃波で周囲の物質が吹き寄せられ、輝く輪を作ります。このような輪は、ハッブル宇宙望遠鏡でも観測されています。爆発の衝撃の一部はこうした周囲の物質に当たって跳ね返り、超新星爆発の中心部に戻ってきます。「ある程度時間が経過すると、跳ね返ってきた衝撃波が固体微粒子の集合体の中に飛び込んできます。」とインデベトー氏は語ります。「超新星爆発によって作られた固体微粒子の一部は、この衝撃波で壊されてしまうでしょう。半分なのか2/3なのか、あるいはもっとずっと少ないのか、その割合はまだわかりません。」もし大部分の固体微粒子が生き残って宇宙空間に広がっていくのであれば、今回の観測結果は、多くの銀河で観測される大量の固体微粒子の起源が超新星爆発であることを示していることになります。
「宇宙初期にある銀河には驚くほど大量の固体微粒子が含まれていて、銀河の進化に非常に大きな影響を与えます。」と研究チームの一員である英国ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの松浦美香子氏は語っています。「固体微粒子の供給源はいくつか考えられていますが、特に初期宇宙ではほとんどが超新星爆発によって作られているはずです。アルマ望遠鏡による観測で、その直接の証拠を得ることができました。」
今回の研究成果は、R. Indebetouw et al. “Dust Production and Particle Acceleration in Supernova 1987A Revealed with ALMA” として、天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されます。
注
[1] 宇宙空間に漂う固体微粒子は、地球にも豊富に存在するシリケイト(ケイ酸塩)やグラファイトでできています。ろうそくから出る「すす」は、宇宙に漂うグラファイトとよく似た成分でできていますが、ここの粒子を見ると「すす」のほうが10倍以上の大きさを持っています。
[2] 超新星の光が1987年に観測されたことからこの名があります。この爆発で生じたニュートリノを観測したことで、東京大学の小柴昌俊博士は2002年にノーベル物理学賞を受賞しました。
コラム:超新星1987Aに微粒子を求めて~ ハーシェル宇宙望遠鏡による観測
超新星1987A周囲の固体微粒子の観測は、これまでにも行われたことがあります。2011年、科学雑誌サイエンスに掲載された研究成果(Matsuura et al, 2011 “Herschel Detects a Massive Dust Reservoir in Supernova 1987A”)では、欧州が打ち上げたハーシェル赤外線宇宙望遠鏡による観測により、太陽質量の0.4~0.7倍の質量をもつ固体微粒子の集合体が発見されています。
爆発の500日後に行われた観測では太陽質量の1万分の1に相当する量の固体微粒子しか見つかっていなかったことを考えると、ハーシェル宇宙望遠鏡による観測では驚くほど大量の固体微粒子が検出されたことになります。しかし、ハーシェル宇宙望遠鏡の解像度は7秒角~35秒角とあまりよくないため、固体微粒子が超新星1987Aのまわりにもともとあったものなのか、その場で作られたものなのかを区別することができませんでした。今回のアルマ望遠鏡による観測の解像度は最大で0.5秒角と、ハーシェル宇宙望遠鏡よりも 10倍以上向上したため、まさに超新星爆発が起きたその場所に固体微粒子があることを突き止めることができました。
Credit: ESA/NASA-JPL/Caltech/UCL
上の画像は、ハーシェル宇宙望遠鏡による遠赤外線観測結果(左)とハッブル宇宙望遠鏡による可視光観測結果(右)を並べたものです。ハーシェル宇宙望遠鏡の画像の中央、白い丸に囲まれた部分が超新星1987Aで、解像度があまりよくないハーシェル宇宙望遠鏡ではその詳しい様子がわかりません。ハッブル宇宙望遠鏡の画像には二重のリングが見えていますが、アルマ望遠鏡はその高い解像度を活かして内側のリングの中に固体微粒子が大量に含まれていることを発見しました。