アルマ望遠鏡が、若い星おおかみ座IM星のまわりに二重の華やかなリングをとらえました。このリングは宇宙に最もありふれている重イオン(荷電分子)のひとつ、DCO+(重水素―炭素―酸素)でできています。宇宙にはHCO+(水素-炭素-酸素)という重イオンがさらに多く分布していますが、DCO+はHCO+の水素が「水素重水素交換」という反応で重水素に置き換えられたものです。
この研究によって、若い星の周りの惑星形成円盤の状態についての新たな一面を見ることができました。「私たちはアルマによって、今まさに惑星が形作られている円盤に起きている化学的性質を観測することができるようになりました」と、アストロフィジカル・ジャーナルに掲載された論文の筆頭著者のカリン・ウーベル氏(米・ハーバードスミソニアン天体物理学センター)は述べます。「分子は2つの美しいリングを形作っています。私たちは、内側のリングについては見えると予想していたのですが、外側のリングは全くの予想外でした。この発見は原始惑星系円盤の外側の性質を理解する新しい手掛かりとなります。」
研究者は、星の近くでは温度が低く、また材料となる一酸化炭素(CO)ガスが豊富にあることによってDCO+のリングができると考えています。もっと星に近い場所は、DCO+ができるには暖かすぎます。一方、離れたところでは、貯まっていた一酸化炭素はすべて凍り、塵の粒や微惑星の上に氷の膜を作ります。
外側のリングの存在から、次の仮定が導き出されます。中心の星から遠くなるほど、周囲の環境は冷たく、暗くなります。しかし円盤の密度が非常に低い部分では、中心星からの光が円盤の内部まで突き刺さるように届いているのではないかと考えられます。この光によって凍っていた一酸化炭素が昇華し円盤中に戻っていくことで、DCO+の生成が再び起きているのです。重水素でできた重い分子が、これまで予想されていなかったような場所で作られる可能性があるのです。
この研究によって、これらの分子が私たちの太陽系やその他の惑星系の形成史を探る有力な道具になることがわかりました。「重い分子は、どこでどのように様々な分子が形成されたのかを私たちに教えてくれる、いわば星の間のメッセンジャーです」と、ウーベル氏は記しています。「例えば、地球の海には重水(重水素と酸素から成る水)がたくさん含まれています。そのことは、地球の水のほとんどは太陽が今のように輝き出す前の、原始太陽系星雲の頃から存在したことを示しています。つまり、海水は太陽よりも長い歴史を持っているということなのです。」
この研究成果は、K. Öberg et al.“Double DCO+ rings reveal CO ice desorption in the outer disk around IM Lup” として、2015年9月4日発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されました。
下の画像は、アルマ望遠鏡が観測した、おおかみ座IM星の周囲の原始惑星系円盤です。中心の星を取り囲むDCO+(重水素―炭素―酸素)の二重のリングが見えています。
Credit K. Oberg, CfA; ALMA (NRAO/ESO/NAOJ); B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)