アルマ望遠鏡はすでに画期的な成果を数多く届けてくれていますが、特殊な観測形態としてヨーロッパやアメリカにある別の電波望遠鏡とつないで運用することで、その能力をさらに飛躍的に高めることができます。大きく離れた地点にあるアンテナを結合させてひとつの電波望遠鏡とする技術を、超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometer、VLBI)と呼びます。アルマ望遠鏡はそれ自体が複数のアンテナを結合させた「干渉計」ですが、さらにほかのアンテナと組み合わせることで、地球サイズの電波望遠鏡として機能します。
この試みはまだ実験段階ですが、Event Horizon Telescope(EHT)の実現に向けた重要な一歩です[1]。EHTではアルマ望遠鏡をはじめ世界のミリ波電波望遠鏡を結合させて、天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホールをこれまでにない解像度で観測することを目指しています。
この実験に参加する前に、アルマ望遠鏡はフェイズドアレイという新しい観測モードの試験が行われました。このモードでは、アルマ望遠鏡の全アンテナで取得されるデータを足し合わせて直径85mの一つの巨大なアンテナとして機能させ、巨大なVLBIの一アンテナとするのです。
アルマ望遠鏡を組み込んだVLBI実験は、2015年1月13日に行われました。アルマ望遠鏡の2kmほど隔てたところにあるAPEX望遠鏡との間でのものでした。2015年3月30日には、スペインにあるIRAM 30m電波望遠鏡とのVIBI試験観測が行われました。この時には2つの望遠鏡は非常に明るいクエーサー 3C273を同時に観測しました。2つの望遠鏡を組み合わせることで、その解像度は34マイクロ秒角(視力100万)にも達します。これは、月面においてある10cmの物体を地球から見分けられる解像度に相当します。
もっとも最近のVLBI観測は2015年8月1日~3日に行われたもので、アメリカ国立電波天文台の超長基線アレイ(VLBA)[2] の6台のアンテナとアルマ望遠鏡を結合させたものでした。この時の観測対象は78億光年かなたにある明るいクエーサー3C454.3であり、観測されたデータはアメリカ国立電波天文台とマサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所で処理され、さらにドイツのマックスプランク電波天文学研究所でさらなる解析が行われました。
アルマ望遠鏡はこれからもアルマ望遠鏡だけで観測を行っていくのが基本形態ですが、超巨大ブラックホールなど特殊なテーマの観測の際には、今回のように他の望遠鏡ともつなぎ合わせて観測を行います。こうした新しい観測は、全世界的なミリ波VLBI観測ネットワークの構築やEHTの実現につながる重要なステップであり、その中でもアルマ望遠鏡はもっとも巨大で高感度な観測局としての役割を果たしています。アルマ望遠鏡が参加することにより、VLBI観測の撮影能力が10倍もよくなるのです。
注:
[1] このプロジェクト(ALMA Phasing Project)には、日本の国立天文台のほか、アメリカ国立電波天文台、台湾中央研究院天文及天文物理研究所、スミソニアン天体物理観測所、マサチューセッツ工科大学ヘイスタック観測所、マックスプランク電波天文学研究所、オンサラ宇宙観測所、チリ・コンセプシオン大学、そして合同アルマ観測所が参加しています。
[2]VLBAでは、ハワイからカリブ海に浮かぶセント・クロイ島に至るまで全米に配置した10台のパラボラアンテナを結合させるシステムです。
Credit: A. Angelich (NRAO/AUI/NSF)