銀河形成の「黄金時代」:アルマ望遠鏡で探るハッブル・ウルトラディープフィールド


文章に一部誤解を招く表現、特に先行研究への言及が不十分な点がありましたので、2016年11月15日に記事を一部修正しました。


ハッブル宇宙望遠鏡が写し出した宇宙の最深部「ハッブル・ウルトラディープフィールド」を、複数の研究者チームがアルマ望遠鏡で観測しました。その結果は、カリフォルニアで開催されたアルマ望遠鏡国際研究会” Half a Decade of ALMA Conference”で発表され、また合計8つの論文として米国の「アストロフィジカル・ジャーナル」とイギリスの「英国王立天文学会誌」に掲載されます。

アルマ望遠鏡による今回の観測は、これまで行われていたミリ波による同領域の観測よりもずっと高感度・高解像度なものになりました。これにより、さまざまな場所と時代に星を作るガスが存在していることが確認され、銀河形成の「黄金時代」とも言える100億年前の宇宙について理解するための新しい手掛かりを得ることができました。

ハッブル宇宙望遠鏡は、一見して目立つ天体が無い領域を長時間観測することによって、非常に遠方の宇宙の様子を明らかにしてきました。こうした観測手法は「ブラインド・サーチ」と呼ばれ、存在が知られている天体の姿を明らかにするためのものではなく、ある意味では偶然の発見をあてにしたものといえます。

研究チームの一員である米国国立電波天文台のクリス・カリーリ氏は、「私たちは、初期宇宙に存在する冷たいガスのブラインド・サーチを敢行したのです。これにより、他の遠方宇宙観測では明確には分かっていなかった銀河の新しい側面を見ることができました。」と語っています。

ハッブル宇宙望遠鏡が星や銀河などの高温の天体から放たれる可視光や赤外線・紫外線を観測するのに対して、アルマ望遠鏡は星の材料となる冷たいガスや塵からの電波(ミリ波)を検出します。たとえば今回行われたアルマ望遠鏡による観測の中には、銀河に含まれる一酸化炭素ガスの検出に焦点を絞ったものもありました。一酸化炭素ガスは星の材料の指標になるガスですが、ハッブル宇宙望遠鏡では見ることができません。ハッブル宇宙望遠鏡とは見えるものがまったく異なるため、天文学者はアルマ望遠鏡を使ってまったく異なる天体の姿を調べることができるのです。

ひとつの研究チームを率いるジム・ダンロップ氏は、次のように語ります。「私たちの成果は、重要なブレイクスルーをもたらしました。ハッブル宇宙望遠鏡が可視光と紫外線で見た遠方宇宙と、アルマ望遠鏡がミリ波で見た遠方宇宙をつなげることが初めて可能になったのです。」


【動画】 アルマ望遠鏡によるハッブル・ウルトラディープフィールドの観測結果を示した映像。アルマ望遠鏡で見える天体(オレンジ色)とハッブル宇宙望遠鏡で見える天体が異なっていることがわかります。
Credit: B. Saxton (NRAO/AUI/NSF); ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); NASA/ESA Hubble. Music: Mark Mercury)

「新しく発見された一酸化炭素に富む銀河たちは、宇宙全体の星形成史に重要な影響を与えていることでしょう」と、研究チームの一員でドイツ・マックスプランク天文学研究所のロベルト・デカーリ氏はコメントしています。「アルマ望遠鏡によって、ハッブル・ウルトラディープフィールドにおける銀河の形成と成長を調べる道が切り開かれました。」

アルマ望遠鏡によるハッブル・ウルトラディープフィールドの観測では、相補的な2つのデータが取得されました。ひとつは主に塵から出る電波、もうひとつは冷たい分子ガスから出る電波で、両方とも星の材料の存在や性質を調べる上で重要な意味を持ちます。分子ガスからの電波は、宇宙膨張による波長のずれ(赤方偏移)を測定できるという点でも重要です。これにより、電波を発する天体までの距離(電波が宇宙を旅してきた時間の長さ)を推定することができるのです。赤方偏移を調べることにより、天文学者は銀河の3次元地図を構築することが可能になります。遠くのものほど昔の姿を見せていることになりますので、さまざまな距離にある天体を調べることで、時代を遡りながら銀河の進化の道筋をたどることができます。なおこれまでに行われた遠方銀河の低温ガス分布探査としては、欧州のプラトー・デ・ビュール電波干渉計やアメリカのカール・ジャンスキーVLAなどを使ったものがあります。


【画像1】 ハッブル・ウルトラディープフィールドを見通すようすの模式図。左が現在で、右に行くほど遠く(過去)の宇宙を見ていることになります。アルマ望遠鏡は銀河に含まれる一酸化炭素ガスの分布を調べ、宇宙のさまざまな時代における星形成に迫っています。
Credit: R. Decarli (MPIA); ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

研究チームの一員でディエゴ・ポルタレス大学のマニュエル・アラヴェナ氏は「アルマ望遠鏡による今回の観測から、過去に行くほど急激に銀河内のガスの量が増えていくことがわかりました。およそ100億年前に宇宙における星形成率が最大であったことの直接の要因と考えられます。」と語っています。

アルマ望遠鏡が今回観測したハッブル・ウルトラディープフィールドは、南の星座である「ろ座」の方向にあるため、南半球にある望遠鏡からよく観測することができます。この領域に対するアルマ望遠鏡の総観測時間は50時間に達しており、他のどの領域よりも長い観測時間が投入されています。さらに、ASPECS(ALMA Spectroscopic Survey in the Hubble Ultra Deep Field)と名づけられた合計150時間の観測キャンペーンが既に承認されており、宇宙の銀河形成・星形成史に新たな光が当てられることは間違いないでしょう。

「ハッブル・ウルトラディープフィールドは、ハッブル宇宙望遠鏡の代表的な成果のひとつです。アルマ望遠鏡による今後の大規模サーベイ観測の成果を足し合わせることで、この領域に存在する銀河の完全な姿を私たちは目にすることができるはずです。」と、マックスプランク天文学研究所のファビアン・ウォルター氏は期待を述べています。


これらの観測成果は、以下の論文に掲載されます。

  • M. Aravena et al. “ALMA Spectroscopic Survey in the Hubble Ultra Deep Field: Search for [CII] line and dust emission in 6

Tags : 観測成果

NEW ARTICLES