国立天文台講演会 / 第24回アルマ望遠鏡講演会が2月2日(日)、東京国際交流館(東京都江東区)で開催されました。講演のテーマは、「アルマ望遠鏡で迫る銀河の誕生と進化」。アルマ望遠鏡による銀河研究の全体像をはじめ、近傍銀河、遠方銀河、それぞれの専門家をお招きして最新の科学成果をご紹介しました。
講演後の質疑応答では、「どうして酸素を検出しなければならないの?」とか、「最近の遠方銀河観測の競争の中で、新しく見えてきた初期宇宙に関する描像はありますか?」など、会場からたくさんの質問が寄せられました。アットホームな雰囲気の中、研究者との活発な対話が繰り広げられました。
◎銀河の「影の支配者」を電波で見る: 中西 康一郎 氏(国立天文台 特任准教授)
最初の講演は、アルマ望遠鏡による銀河研究の全体像の紹介から始まりました。銀河の「影の支配者」は誰なのか―。さまざまな銀河の特徴を見比べながら、この問いに迫ります。銀河の誕生や成長にとって大切なプロセスは、星が誕生すること。星の誕生のもとになるのは、星と星の間を漂うガスや塵です。目では見えないガスや塵を日々とらえ続けるアルマ望遠鏡。その観測のしくみをはじめ、アンテナ装置のある南米チリの様子や研究風景などをご紹介しました。さらに、アルマ望遠鏡で撮像した銀河の電波写真集をもとに、ガスの「量」や「品質」を調べる際のポイント、新たに検出された銀河の描像についても解説しました。
◎アルマは銀河の何を見るか?―分子が語る星の材料―: 濤﨑 智佳 氏(上越教育大学 教授)
濤﨑氏は、教員志望の大学生を対象に天文学や科学教育の指導にあたる傍ら、さまざまな分子を使って銀河の観測研究を続けておられます。「分子と銀河のサイズは30桁違い!」というスケールの違いに始まり、「宇宙には桁違いの話がたくさんある」という切り口で研究の面白さを語ってくださいました。近年、高い感度を持つアルマ望遠鏡を使って見えてきたさまざまな分子、その分子によって明らかになりつつある銀河の多様性についても紹介していただきました。「新しい観測装置でいろいろなことがわかるようになるほど謎も増えてくる。でもそれが楽しい。」など、最前線の研究者ならではのエピソードに会場からも感嘆の声があがっていました。
◎宇宙で最初の銀河を探して―アルマ望遠鏡による挑戦―: 井上 昭雄 氏(早稲田大学 教授)
井上氏の専門は、観測宇宙物理学。井上氏の研究グループは、これまでにアルマ望遠鏡を使って132億8000万光年彼方の銀河で酸素を発見し、最遠方銀河の分野で世界をリードする研究成果をあげています。宇宙の膨張によって電波の波長が伸びる「赤方偏移」をキーワードに、世界中の研究者が最も遠い天体(=宇宙のはじまりに最も近い天体)を競い合いながら探すようすをスポーツに例え、研究の進展を臨場感ある語り口で紹介していただきました。また、現在検討中の次世代望遠鏡とアルマ望遠鏡のコラボレーションによる今後の展望についても語ってくださいました。
近年、アルマ望遠鏡の観測によって130億光年を超える距離にある銀河で酸素や炭素などが次々と発見され、遠方銀河のイメージが大きく塗り替えられました。一方、近傍銀河では、星の材料となる分子雲の姿が鮮明に描き出されるようになり、天の川銀河の中での星形成と系外銀河での星形成研究の成果がつながり始めるなど、飛躍的に進展しています。
講演の記録映像は、YouTubeでご覧いただけます。