2021.06.11
観測史上最古、131億年前の銀河に吹き荒れる超巨大ブラックホールの嵐
宇宙には幾多の銀河が存在していますが、多くの大型の銀河の中心には、太陽の数百万倍から数百億倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールが隠れています。興味深いことに、そのブラックホールの質量と銀河中央部(バルジ)の質量はほぼ比例します。一見当たり前のようで、これはとても不思議な事実です。それは、銀河とブラックホールの大きさが10桁ほど異なるからです。それほど大きさが違う2者の質量にきれいな比例関係があることから、天文学者は両者が何らかの物理的相互作用をしながら共に成長・進化した、つまり「共進化」したと考えています。
銀河とブラックホールの共進化で重要な役割を果たすのが、銀河風です。超巨大ブラックホールは物質を大量に飲み込んで成長します。このとき、ブラックホールの重力で高速運動を始めた物質から強烈なエネルギーが発せられることで、周囲の物質を外側に押し出すことができるのです。この影響が外側へ外側へと伝搬すると、やがては銀河全体に吹き荒れる風、つまりは「銀河風」にまで発達するでしょう。この銀河風によって、銀河全体から見るとごく小さなサイズのブラックホールから、銀河全体のスケールにわたる影響が生み出されるのです。
では、こうした銀河風は、138億年の宇宙の歴史の中でいつ頃から存在したのでしょうか。これは、銀河と超巨大ブラックホールがどのように進化してきたのか、という天文学の重要な問題に挑戦するための重要な問いといえます。
超巨大ブラックホールが駆動する銀河風を過去の宇宙に探るためには、まず超巨大ブラックホールを宿す銀河を見つける必要があります。研究チームは、国立天文台がハワイ・マウナケアに設置したすばる望遠鏡を用いて宇宙の広い範囲を観測し、超巨大ブラックホールを持つ銀河を130億年以上昔の宇宙に100個以上も発見しました [1] 。宇宙誕生後10億年に満たない宇宙に超巨大ブラックホールが普遍的に存在することを明らかにした画期的な成果でした。
そして今回、太古の宇宙の銀河風の存在を明らかにするため、研究チームはアルマ望遠鏡を使いました。アルマ望遠鏡を使えば、銀河に含まれるガスが放つ電波のドップラー効果を解析することで、ガスの動きを捉えることができます。すばる望遠鏡で発見された銀河HSC J124353.93+010038.5(略称 J1243+0100)をアルマ望遠鏡で観測したところ、この銀河に含まれる塵と炭素イオンが放つ電波を捉えることができました [2] 。宇宙空間を131億年間にわたって飛び続けて地球に飛来した微弱な電波を捉えるために、アルマ望遠鏡の高い感度が重要な役割を果たしました。
J1243+0100の炭素イオンが放つ電波からガスの動きを分析したところ、銀河の回転運動に加えて、毎秒500kmもの速度で移動する高速ガス流が存在することがわかりました。また、このガスの動きは銀河に含まれる星の材料物質を押しのけ、星形成活動を停止させるのに十分なエネルギーを持っていました。今回見つかったガス流はまさに銀河風であり、銀河サイズの巨大な銀河風が見つかった銀河としては最も古い時代の観測例となりました。これまでの最古の記録は約130億年前の銀河でしたので、今回の観測でさらに歴史を1億年さかのぼったことになります。
泉氏らは、J1243+0100の中で静かな動きを持つガスの運動も測定し、重力的なつり合いの関係からこの銀河のバルジの質量を推定すると、太陽の約300億倍となりました。別の方法で見積もったこの銀河の超巨大ブラックホールの質量はその1%ほどでした。この銀河のバルジと超巨大ブラックホールの質量比は、現代の宇宙に存在する銀河における質量比とほぼ一致していました。これは、宇宙誕生後10億年に満たない時代から、超巨大ブラックホールと銀河の共進化が起きていたことを示唆しています。
泉氏は、「近年の高精度コンピューターシミュレーションでは、およそ130億年前時点でも近傍宇宙と遜色ない共進化関係が出来上がっていることが予測されていました。私たちの観測はその予測を支持するものです。私たちは今後、このような天体を大量に観測することを計画しており、本天体で見えてきた『始原的共進化』が当時の宇宙の普遍的な描像かどうかを明らかにしたいと考えています。」とコメントしています。
論文情報
この観測成果は、Takuma Izumi et al. “Subaru High-z Exploration of Low-Luminosity Quasars (SHELLQs). XIII. Large-scale Feedback and Star Formation in a Low-Luminosity Quasar at z = 7.07”として、2021年6月14日付で米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されます。
この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No. JP20K14531, JP17H06130, 1146 JP17H01114, JP19J00892)、文部科学省卓越研究員事業(HJH02007)、Spanish MICINN (PID2019-10GB-C33 and “Unit of Excellence María de Maeztu 2020-2023” awarded to ICCUB (CEX2019-000918-M))、National Science Foundation of China (11721303, 11991052, 11950410493, 12073003) 、National Key R&D Program of China (2016YFA0400702)、European Research Council (ERC) Consolidator Grant funding scheme (project ConTExt, grant No. 648179)、 Independent Research Fund Denmark grant DFF–7014-00017、the Danish National Research Foundation under grant No. 140.
1 | 詳しくは、2019年3月13日付のすばる望遠鏡プレスリリース「超遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見」をご覧ください。発見された超巨大ブラックホールを持つ銀河の数はこの発表時には83個でしたが、現在では100個以上にまで発見数が増加しています。 |
---|---|
2 | 塵や炭素イオンが放ったのは遠赤外線でしたが、宇宙膨張に伴う赤方偏移によって波長が伸び、電波となってアルマ望遠鏡で観測されました。この銀河の赤方偏移はz=7.07でした。これをもとに宇宙論パラメータ(H0=67.3km/s/Mpc, Ωm=0.315, Λ=0.685: Planck 2013 Results)で光行距離(光が進んだ道のり)を計算すると、131億光年となります。距離の計算について、詳しくは「遠い天体の距離について」もご覧ください。 |