地球型惑星の形成現場を描き出す~アルマ望遠鏡で捉えた原始ミニ太陽系~

国立天文台ハワイ観測所の工藤智幸氏らの国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、若い星おうし座DM星の周りに存在する円盤の構造の詳細な観測を行いました。その結果、おうし座DM星の周囲の原始惑星系円盤の塵の分布を、6天文単位という、これまでにない高い空間解像度でとらえることに成功し、私たちの太陽系とよく似た構造が描き出されました。

近年、我々の太陽系以外にも多くの惑星が発見されてきています。それらは多様性に富んでおり、形成過程については多くの謎が残されています。その謎を解く鍵は、惑星が生まれる土台である「原始惑星系円盤」にあります。原始惑星系円盤は、星が生まれる時にその周りに形成される、塵やガスでできた、回転する円盤状の構造です。この中で、数百万年程度の時間をかけて塵が集積することにより、惑星が誕生すると考えられています。したがって、惑星形成を理解するためには実際の原始惑星系円盤の観測が不可欠です。特に、原始惑星系円盤における塵の分布を知ることは、そこで生まれてくる惑星系の原材料の分布を知ることにつながります。しかし、地球のような岩石惑星の形成現場は中心の星に近い場所であると考えられ、見かけの大きさが極めて小さいので観測がとても難しく、塵の分布に関する情報が乏しい状況が続いていました。アルマ望遠鏡は、高い解像度と感度を持つ世界最大級の電波望遠鏡です。この望遠鏡を用いることで、原始惑星系円盤の塵から発せられる微弱な電波を、高い解像度と感度でとらえることが可能になり、円盤の「電波写真」を撮ることができるようになりました。特に、中心星近傍の半径数天文単位以内(1天文単位は距離の単位で、太陽・地球間の平均距離である、約1億5000万キロメートルに相当)の構造をとらえることは、「地球と同じような岩石惑星がどのように形成されるのか?」という疑問に迫るための鍵となる観測として、世界的にも精力的に進められてきています。

おうし座DM星は、地球から距離約470光年の位置にあり、太陽の半分程度の質量を持った、年齢が300~500万歳の若い星(比較として、太陽は46億歳)です。過去に、この星の明るさを様々な波長で調べた結果から、その周囲に原始惑星系円盤が存在することが予想されていました。また、この原始惑星系円盤は、中心から3天文単位程度の距離より内側に、塵の存在しない「穴」のような構造があることも予想されていました。この「穴」構造は、その中に惑星が存在している可能性を示唆するものです。このことから、おうし座DM星は様々な研究者の注目の対象となってきました。この天体を電波観測によって空間的に分解して撮像しようとする試みは、アルマ望遠鏡以前から、ハワイにあるサブミリ波干渉計(SMA)などで行われてきました。しかし、その結果見いだされたものは、予想に反し、半径20天文単位(太陽系では天王星の軌道の大きさに相当)程度の大きな穴構造でした。果たして「穴」の大きさは、3天文単位程度の小さなものなのか、20天文単位程度の大きなものなのか?相反する二つの観測があり、おうし座DM星の周囲の原始惑星系円盤の構造は、長年の謎でした。

国立天文台、アストロバイオロジーセンター、工学院大学などの研究者から成る国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、このおうし座DM星の周りに存在する円盤の構造の詳細な観測を行いました。その結果、おうし座DM星の周囲の原始惑星系円盤の塵の分布を、6天文単位という、これまでにない高い空間解像度でとらえることに成功しました。

アルマ望遠鏡がとらえた若い星おうし座DM星のまわりの塵の円盤

アルマ望遠鏡がとらえた若い星おうし座DM星のまわりの塵の円盤
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO),Kudo et al.

若い星おうし座DM星の想像図

アルマ望遠鏡による観測をもとにした、おうし座DM星の想像図。星のまわりに2重の塵の円盤があることがわかりました。
Credit: 国立天文台

この円盤は、地球から見た視線に対して35度程度傾いているため、見かけ上は楕円のように見えます。中心星からおよそ20天文単位程度離れた場所に、リング状の構造があることが分かりました。これは、SMAによる観測と一致します。今回の観測によって、このリング状構造の内側の中心付近に弱い放射があることが初めてわかりました。画像では中心付近からの放射は二つの塊のように見えますが、データをより詳しく解析することで、この構造は、半径約3天文単位のリング状構造が望遠鏡の解像度の影響でぼやけて見えたものである、として説明できることが分かりました。今回のアルマ望遠鏡の観測によって、これまで直接見ることができなかった、この天体の円盤の内側、中心星から数天文単位の領域の情報を、画像として得ることができました。これに加えて、半径20天文単位のリング構造の解析をより詳しく行うことで、その場所の塵の分布が一様でないことも明らかにすることができました。またリング構造の外側には、太陽系における冥王星の軌道半径(およそ40天文単位)にあたる場所よりも遠くに、淡く拡がった放射があることが分かりました。

今回の観測で特に注目すべきは、最も内側(中心の星から約3天文単位離れた領域)の位置にある塵の円盤を検出できたことにあります。今回の観測は、「穴」の大きさに関して、相反する(ように見えていた)二つの先行研究に対し、「二つのリング構造があり、どちらの予想も正しい」という形で決着を付けた、決定的なものです。また、今回、おうし座DM星の周囲の原始惑星系円盤の構造が明らかになったことで、惑星形成に対する新たな知見も得られました。今回の観測で得られた結果を、私たちの太陽系の姿と比べてみると、
 (1)おうし座DM星から3天文単位程度の半径のリングと、太陽からおよそ3天文単位の半径にある小惑星帯
 (2)おうし座DM星から20天文単位程度の半径のリングと、太陽からおよそ20天文単位の半径にある天王星
 (3)おうし座DM星から60天文単位より遠方に拡がる淡い塵の分布と、太陽からおよそ30天文単位より外側に拡がるエッジワース・カイパーベルト
と、太陽系とおうし座DM星系が非常によく似た姿をしていることが分かります。塵がリング状に集まった箇所は、塵どうしが衝突して合体することが起こりやすいため、惑星が形成されやすい環境と考えられます。加えて、中心星から約20天文単位離れた位置のリングに見いだされた非対称な構造は、その場所でさらに塵が多く存在し、惑星の材料がより豊富であること、つまりより大型の惑星が形成されやすいことを示唆します。以上のことから、太陽系とよく似た惑星系が、おうし座DM星に作られていくことが示唆されます。ただし、おうし座DM星の質量は、太陽の半分程度ですから、この系は、中心星が軽いという「ミニ太陽系」の若かりし頃の姿であると言えるでしょう。「私たちの太陽系と似た姿の惑星系はあるのか?」もしくは「地球のような惑星は他に宇宙に存在するのか?」という疑問は、系外惑星研究における長年の根本的な課題です。この問題に対し、今回の観測は、少なくともその候補となりうる天体を一つ見つけた、という点で、重要なマイルストーンになりました。

本研究によって、おうし座DM星は「ミニ太陽系」へと繋がる原始惑星系円盤を伴っていることが明らかとなりました。一方、太陽系の若かりし頃と同じ姿をした原始惑星系円盤が普遍的に存在しているかどうかを調べるためには、よりたくさんの円盤の観測が必要です。アルマ望遠鏡を用いた高い解像度の観測は始まったばかりです。今後のアルマ望遠鏡の活躍により、原始惑星系円盤のどれくらいの割合が太陽系に似ているか、ということが明らかになると期待されます。また、「おうし座DM星のまわりにすでに惑星が出来ているのか?」という重要な疑問には、今回の観測で答えることができません。形成途中にある若い惑星本体は赤外線で明るく輝くため、この疑問に答えるためには、赤外線での観測が重要になります。もし誕生初期の惑星を赤外線の画像として直接撮像することに成功し、その形成場所、明るさなどを捉えることができれば、ガスや塵が、いつ、どのように惑星へと進化していくのかが明らかになるでしょう。おうし座DM星は、私たちの太陽系とよく似た姿をしているため、この天体を詳しく調べることで、私たちの太陽系の起源を探ることにもつながるでしょう。現在、このような観測を可能にしようとする、すばる望遠鏡用の新装置「SCExAO(スケックスエーオー)」が、国立天文台ハワイ観測所で開発されています。電波を観測するアルマ望遠鏡と赤外線を観測するすばる望遠鏡の協力連携で、おうし座DM星の素顔がよりはっきりわかるようになると期待できます。今回、研究チームが捉えたおうし座DM星の研究結果を一例として、今後、地球型惑星の形成領域を対象とした研究がより一層活発になるでしょう。「様々な手法による観測」、「新装置の開発」、そして観測結果を整合的に説明する「理論」を有機的につなげることで、「太陽系、そして地球がどのように形成されたのか?」を明らかにすべく、研究チームはさらなる挑戦を続けます。

論文・研究チーム
この観測成果は、Kudo et al. “A Spatially Resolved au-scale Inner Disk around DM Tau”として、米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に2018年11月に掲載されました。また、2019年3月13日から開催される日本天文学会2019年春季年会でも発表されます。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
工藤智幸(国立天文台)、橋本淳(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター)、武藤恭之(工学院大学)、Hauyu Baobab Liu(台湾中央研究院天文及天文物理研究所)、Ruobing Dong(ビクトリア大学)、長谷川靖紘(NASAジェット推進研究所)、塚越崇(国立天文台)、小西美穂子(自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター)

この研究は、文部科学省日本学術振興会科学研究費補助金(No.17K14258,17K14244,26800106,15H02074,17H01103)、および米国NASAジェット推進研究所からの支援を受けて行われました。

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