観測史上最古の「隠れ銀河」を131億年前の宇宙で発見

札本佳伸 国立天文台アルマプロジェクト特任研究員・早稲田大学理工学術院総合研究所次席研究員と稲見華恵 広島大学宇宙科学センター助教らの国際研究チームが、アルマ望遠鏡の大規模探査による観測データの中から、約130億年前の宇宙で塵に深く埋もれた銀河を複数発見しました。そのうちの一つは、塵に埋もれた銀河として見つかったものの中で最古の銀河です。今回発見されたような銀河は、すばる望遠鏡などを用いた観測で発見することは難しく、初期の宇宙にどれほど存在するのかこれまで全くわかっていませんでした。今回の発見は、宇宙の歴史の初期においても数多くの銀河が塵に深く隠され、いまだ発見されないままになっていることを示します。同時に、このような銀河は宇宙の初期における銀河の形成と進化をより統一的に理解する上で重要な発見です。
REBELS

アルマ望遠鏡で観測した電離炭素原子からの放射を緑、塵からの放射をオレンジ、VISTA望遠鏡・ハッブル宇宙望遠鏡で観測した近赤外線を青で表現しています。REBELS-12、REBELS-29は近赤外線と電離炭素原子・塵からの放射がいずれも検出されていますが、REBELS-12-2とREBELS-29-2では近赤外線が検出されていません。これらは今回のアルマ望遠鏡による観測で初めて見つかった銀河で、塵に深く埋もれていると考えられます。
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Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, ESO, Fudamoto et al.

 

過去20年以上にわたり、世界中の研究者がすばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡など用いて遠方銀河の探査を行ってきました。光が有限の速さでやってくることから、遠方銀河を探査することで初期の宇宙にあった銀河の姿を直接捉えられます。そして、それらの大規模な探査の結果、ビッグバンから10億年以内の宇宙の初期に存在した銀河が数多く発見され、それらの時代において銀河がどのように形成・進化してきたのかについての研究が大きく進んできました。

このような宇宙の初期にある銀河の大規模な探査では、銀河に含まれる、太陽の数十倍程度の質量をもった大型の星から放射される明るい紫外光が観測されてきました。宇宙の膨張によって遠方天体からやってくる光の波長が伸びるため(赤方偏移)宇宙の初期にある銀河から放たれた紫外光は、地球で観測する際には可視光や近赤外線となります。

しかしながら、この紫外光には銀河に含まれる塵(ちり)によって大きく吸収・散乱されるという性質があります。この塵は銀河内部で星が世代交代することによって作り出されるため、銀河で過去にどのような星形成活動があったのかによってその量が変わってきます。内部で放たれた紫外光のほとんどが大量の塵に吸収・散乱されてしまうような、塵に埋もれた銀河の場合は、可視光や近赤外線を用いた観測では見つけることができません。初期の宇宙でこれまでに見つかっている塵に埋もれた銀河は、天の川銀河の1000倍以上といった激しいペースで星形成を行っている極めて稀な銀河に限られていました。そのため、130億年ほど前の宇宙に存在する若くて星形成活動が比較的低調な銀河の大多数は塵にはあまり隠されておらず、感度の良い可視光や近赤外線の観測を行うことで検出が可能だと考えられてきました。

国立天文台アルマプロジェクト特任研究員として早稲田大学で研究活動を行う札本佳伸氏は、アルマ望遠鏡による大規模探査プロジェクト「REBELS」で観測された銀河を研究するうちに、偶然このような塵に埋もれた銀河を初期の宇宙で発見しました。REBELSの本来の目的は、130億年程度前の宇宙に存在したと考えられる近赤外線で非常に明るい40個の銀河を観測し、塵からの放射と炭素イオンの輝線の探査を行うことでした。広島大学宇宙科学センター助教の稲見華恵氏は、REBELSプロジェクトの共同代表研究者として本プロジェクトに参加しています。

札本氏がREBELS-12とREBELS-29という二つの銀河の観測データを調べていたところ、それぞれ本来の観測対象としていた銀河に加えて、そこから少し離れた場所からも塵からの放射と炭素イオンの輝線が非常に強く放たれていることを発見しました。そして驚くべきことに、これらの偶然見つかった新たな放射源の場所には、感度の良いハッブル宇宙望遠鏡を用いても何も見えませんでした。つまり、これらの放射は、ハッブル宇宙望遠鏡などが観測することのできる紫外光をほとんど放っていない、塵に埋もれた銀河からやってきたものであることを示しています。そのうちの一つ、REBELS-12の近傍に見つかった銀河は、塵に埋もれていた銀河の中では観測史上最古となる131億年前のものになります [1] 。さらに驚いたことに、今回見つかった銀河は、これまで塵に埋もれた銀河に見られたような爆発的な星形成は行っておらず、130億年程度前の宇宙でこれまで多数見つかっていた銀河と同程度の星形成活動しかありませんでした。つまり、今回見つかった銀河は、塵に埋もれているということ以外はこれまで知られている典型的な銀河と変わりありません。これは、典型的な星形成活動をおこなう「普通」の銀河であっても宇宙のこれほど初期において塵に埋もれて見えなくなってしまう、ということを示し、多数の銀河が塵に埋もれて未だ発見されていないのではないか、と言うことを示唆しています。

 

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今回の観測結果の模式図。ハッブル宇宙望遠鏡による近赤外線の観測画像(左)では、中心やや下に銀河が見えています。これは右下の想像図のような、これまで存在がよく知られていた若い銀河です。一方今回のアルマ望遠鏡による観測では、ハッブル宇宙望遠鏡では何も見えていない領域に、塵に深く埋もれた銀河(右上の想像図)を新たに発見しました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope

 

これまでの観測からは全く見つけられなかったような種類の銀河が宇宙の初期に存在した、という発見は、いままで考えられてきた宇宙の初期における銀河の形成の理論に大きな影響を及ぼす発見です。このような銀河がどの程度存在し、どのように銀河全体の進化と形成に影響してきたのかをより統一的に理解するにはさらなる観測を待たなければなりません。アルマ望遠鏡による探査や、2021年内に打ち上げ予定のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による大規模な銀河の探査と、それらによる銀河の形成に関する統一的な理解の進歩が待たれます。

札本氏は「宇宙の初期において、塵に埋もれて発見されていないような隠れた普通の銀河が存在するという予想外の、そして偶然の発見に驚きました。今回見つかった銀河は、宇宙の非常に狭い領域から見つかったものであるため、氷山のほんの一角に過ぎないと考えています。このような隠れた銀河がどれだけ宇宙の初期に存在するのかの研究はこれからの大きな課題となるでしょう。」とコメントしています。

また、稲見氏は「今回の発見では、ひとつ謎を解決しようとしたところで新たな謎が見つかった、という研究の醍醐味を改めて感じました。塵を大量に生産するにはある程度歳をとった星が必要なのに、ビッグバン直後という宇宙の極初期で、何がきっかけでどのようにして短時間で塵が生み出されたのか、これから解き明かしていきます。私たちが知り得ていないことが、この広大な宇宙にはまだまだあることを教えてくれる成果です。」とコメントしています。

 

論文情報
この研究成果は、Yoshinobu Fudamoto et al. “Normal, Dust-Obscured Galaxies in the Epoch of Reionization”として、イギリスの科学誌「ネイチャー」オンライン版に2021年9月22日(イギリス時間)付で、また冊子版に2021年9月23日(イギリス時間)付で掲載されます。

この研究は、以下の支援を受けて行われました。
日本学術振興会科学研究費補助金(JP19K23462, JP21H01129), 国立天文台 ALMA Scientific Research Grant 2020-16B, the Swiss National Science Foundation through the SNSF Professorship grant 190079, TOP grant TOP1.16.057, the Nederlandse Onderzoekschool voor Astronomie, STFC Ernest Rutherford Fellowship (ST/S004831/1, ST/T003596/1), European Research Council’s starting grant ERC StG-717001, the NWO’s VIDI grant 016.vidi.189.162, the European Commission’s and University of Groningen’s CO-FUND Rosalind Franklin program, the Amaldi Research Center funded by the MIUR program “Dipartimento di Eccellenza” CUP:B81I18001170001, the National Science Foundation MRI-1626251, FONDECYT grant 1211951, CONICYT+PCI+INSTITUTO MAX PLANCK DE ASTRONOMIA MPG190030, CONICYT+PCI+REDES 190194, ARC Centre of Excellence for All Sky Astrophysics in 3 Dimensions (ASTRO 3D) CE170100013 (EdC), Australian Research Council Laureate Fellowship FL180100060, the ERC Advanced Grant INTERSTELLAR H2020/740120, the Carl Friedrich von Siemens-Forschungspreis der Alexander von Humboldt-Stiftung Research Award, the VIDI research program 639.042.611, JWST/NIRCam contract to the University of Arizona, NAS5-02015, ERC starting grant 851622, the National Science Foundation under grant numbers AST-1614213, AST-1910107, and the Alexander von Humboldt Foundation through a Humboldt Research Fellowship for Experienced Researchers.


1 アルマ望遠鏡の観測によると、REBELS-12の近傍に見つかった銀河の赤方偏移は7.35でした。これをもとに宇宙論パラメータ(H0=67.3km/s/Mpc, Ωm=0.315, Λ=0.685: Planck 2013 Results)で光が飛んできた時間を計算すると、131億年となります。詳しくは「遠い天体の距離について」もご覧ください。

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