山頂施設の12mアンテナが16台に

チリで建設のアルマ望遠鏡、16台のアンテナが揃い、初期科学運用へ

日本を中心とした東アジア・欧州・米国を中心とした北米の国際協力のもとで、南米チリ共和国に建設が進むアルマ望遠鏡計画において、7 月 28 日(日本時間)に 16 台目の高精度パラボラアンテナが現地に設置されました。これで、今秋から開始される初期科学運用に必要な数のアンテナがそろったことになります。


アルマ望遠鏡は、最終的には、2013 年に 66 台の高精度パラボラアンテナでの観測を開始することを予定しています。今回、日米欧が製造を分担した 16 台のパラボラアンテナが現地に揃ったことにより、 完成時の 4 分の 1 のアンテナ台数にもかかわらず、ハワイにある米国のサブミリ波干渉計(SMA:世界最高精度のサブミリ波望遠鏡)を 10 倍以上上回る感度を達成できます。人間の目には見えない電波(ミリ波・サブミリ波)にて、この画期的な性能で、銀河や惑星の誕生、宇宙の中での物質進化や地球生命の起源にまで迫る観測研究が、世界各国の研究者によって間もなく開始されます。

アルマ望遠鏡 (ALMA, Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)は、日本を主とした東アジア、欧州、そして米国を主とした北米の国際協力のもとで、チリ共和国北部のアタカマ砂漠(標高5000mの高原)に建設される巨大電波望遠鏡です。合計66台のパラボラアンテナを1台の巨大な電波望遠鏡として働かせることで、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡を10倍上回る0.01秒角の解像度を達成します。これは、大阪にある1円玉を東京から見分けられるほどの高い視力に相当します。また感度もこれまでの電波望遠鏡に比べて100倍以上向上します。アルマ望遠鏡の登場により、これまでの望遠鏡では観測することができなかった新しい天体の発見や、これまで謎とされてきたさまざまな宇宙の神秘を解き明かすことが期待されています。

山頂施設の12mアンテナが16台に

まだ雪の残る山頂施設に並ぶ16台のパラボラアンテナ
Credit:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

アルマ望遠鏡の建設

アルマ望遠鏡の建設は、2002年に開始されました。標高5000mのアタカマ砂漠に道路や建物を建設する工事と並行して、アルマ望遠鏡に参加する各国でパラボラアンテナや受信機の製作が開始されました。日本は、2004年から本建設計画に参加し、直径12mの高精度パラボラアンテナ4台と直径7mの高精度パラボラアンテナ12台、サブミリ波を中心とする3種類の受信機、そしてこれらパラボラアンテナ群を1つの望遠鏡として動かす役目を果たす相関器(専用スーパーコンピュータ)などを担当することになりました。

2008年12月にはアルマ望遠鏡の運営母体であるチリ合同アルマ観測所に、日本が製作した12mパラボラアンテナが、アルマ望遠鏡第1号パラボラアンテナとして引き渡されました。このパラボラアンテナは標高2900mの山麓施設での様々な調整を経て、2009年9月に最終的な設置場所である標高5000mの山頂施設に運ばれました。2010年1月には、パラボラアンテナ3台での干渉計実験に成功し、試験観測運用を開始しました。

その後も建設は順調に進み、2011年6月までに15台のパラボラアンテナが山頂施設に運ばれ、試験観測が行われてきました。そして 7月28日(日本時間)、初期科学運用開始に必要な 16台目のパラボラアンテナが山頂施設に運ばれました。16台のパラボラアンテナでの試験観測と最終調整を経て、 いよいよアルマ望遠鏡を用いた初めての科学観測、「初期科学運用」が今秋から開始されます。また、7月31日(日本時間)に日本製のパラボラアンテナがさらに1台山頂施設に運ばれ、現在山頂には日本製4台を含む17台のパラボラアンテナが設置されています。

国立天文台の井口聖・東アジア ALMA プロジェクトマネージャは「建設の途中段階ではありますが、16台のパラボラアンテナが揃うことで、すでに現存する電波望遠鏡に対し、圧倒する性能に達します。まだ完成していないとはいえ、ビックバン直後の原始銀河や生命関連分子が誕生しているかもしれない原始惑星系円盤の観測研究が行われるでしょう」と、 アルマ望遠鏡の初期科学運用でも大きな研究成果が出てくることに期待をしています。

また、2012年度開始予定の「本格運用」に向けて、パラボラアンテナや受信機の製造と試験観測が初期科学運用と並行して続けられていきます。

アルマ望遠鏡が見る宇宙

既存の電波望遠鏡に比べて圧倒的に高い解像度(視力)と感度を持つアルマ望遠鏡により、 天文学の様々な分野で大幅な研究の進展が見込まれています。アルマ望遠鏡は、太陽や太陽系の惑星たち、星が作られる場所である分子雲、さらにビッグバン直後の宇宙まで、さまざまな天体を観測することのできるオールマイティーな望遠鏡です。特に期待されているのは生命のもとになるような分子を宇宙で発見することです。

宇宙には、様々な分子が漂っています。一酸化炭素やアンモニア、水といった私たちにもなじみ深い分子も多く存在しています。これらの分子は、それぞれの分子に固有の周波数で電波を発しています。電波望遠鏡を使ってこれらの電波をとらえることで、観測している天体にどのような分子がどれくらいあるのかを測定することができます。そのような分子の中でも、特に地球の生命を形作る大切な要素となっているアミノ酸が宇宙に存在するのかどうか、という点が注目を集めています。地球での生命の誕生を考えるとき、アミノ酸が地球上で起きた化学反応によって作られたのか、あるいは宇宙で作られたアミノ酸がなんらかの原因によって地球上に運ばれ、そこから生命が誕生したのか、我々はまだこれらの謎を科学的に完全に解決できていません。

国立天文台の平松正顕・アルマ推進室教育広報主任は、「アルマ望遠鏡によって、たとえば地球のような惑星系がまさに作られているような場所に豊富なアミノ酸が見つかれば、生命の起源を宇宙に求めることができるようになります。私たち地球の生命の起源にまでも迫ることのできる成果が、アルマ望遠鏡によって生み出されるかもしれません。」と、アルマ望遠鏡での天文学の進展に期待をしています。

(上)赤外線で撮影された星形成領域G34.26+0.15。(下)アルマ望遠鏡(パラボラアンテナ7台)で取得されたG34.26+0.15の試験観測画像(左)とスペクトル(右)。右図の横軸は周波数、縦軸は電波の強度を表す。エチルシアニド(C2H5CN)やシアノアセチレン(HC3N)のような炭素を豊富に含む有機分子が放つ電波が検出されているほか、様々な分子が放出する非常に多様な電波が櫛のように見えている。これはアルマ望遠鏡が非常に高い感度を持つことを示している。

(上)赤外線で撮影された星形成領域G34.26+0.15。(下)アルマ望遠鏡(パラボラアンテナ7台)で取得されたG34.26+0.15の試験観測画像(左)とスペクトル(右)。右図の横軸は周波数、縦軸は電波の強度を表す。エチルシアニド(C2H5CN)やシアノアセチレン(HC3N)のような炭素を豊富に含む有機分子が放つ電波が検出されているほか、様々な分子が放出する非常に多様な電波が櫛のように見えている。これはアルマ望遠鏡が非常に高い感度を持つことを示している。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

星形成領域G34.26+0.15のイメージ図。星が誕生する領域で、様々な分子が作られている。

星形成領域G34.26+0.15のイメージ図。星が誕生する領域で、様々な分子が作られている。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

用語集

解像度

どれだけ細かいものを見分けられるか、という望遠鏡の性能のことで、見分けられる最小の角度で表します。たとえば人間の視力1.0は、1分角(1度の60分の1)の解像度に相当します。すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡の解像度はおよそ0.1秒角(1秒角は1度の3600分の1)であるのに対し、アルマ望遠鏡の最高解像度は0.01秒角を超えます。

試験観測

山頂施設に到着した幾つかのパラボラアンテナを用いて実際の天体観測を行い、アルマ望遠鏡のパラボラアンテナ・受信機・データ処理コンピュータ(相関器)が全体として設計通りの性能を発揮できているかを評価します。このような性能評価のための観測を、アルマ望遠鏡では「試験観測」と呼びます。

初期科学運用

アルマ望遠鏡のパラボラアンテナが16台揃えば、既存のすべてのサブミリ波望遠鏡と比べ、10倍以上の観測感度を実現できます。そこで、アルマ望遠鏡では完成を待たずパラボラアンテナが16台そろった時点で運用を開始することで、いち早く科学的成果を出すことを目指しています。これを「初期科学運用」と呼びます。

本格運用

パラボラアンテナが50台揃うと、完成時と同じレベルでの運用システムを構築しなければなりません。この時には、66台揃う以外は、その他すべての望遠鏡システムの開発が完了します。アルマ望遠鏡では、この段階から「本格運用」開始とします。

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