2019.07.08
アルマ望遠鏡が初めて明らかにした、大質量原始星を取り巻くガス円盤の姿
夜空に光る星には、太陽の数十倍以上の質量を持つものから太陽の数分の一の質量しか持たないものまで、さまざまな質量のものがあります。大質量星も小質量星も宇宙に漂うガスや塵が重力によって集まることで作られ、その過程は徐々に明らかになってきています。しかし、大質量星はそもそも数が少なく太陽系の近くでは作られていないこと、さらに進化のスピードが速いことなどから、大質量星の誕生と成長については多くの謎が残されています。たとえば、大質量の赤ちゃん星(原始星)がどのように周囲のガスや塵を取り込んで成長していくのか、その過程が小質量原始星の場合とどれほど異なるのかなどについては、十分に明らかにされていませんでした。
元木氏を中心とする研究チームは、大質量原始星の周囲の様子を詳しく調べてその成長過程を明らかにするため、アルマ望遠鏡を使って原始星G353.273+0.641(以下、G353と表記)を観測しました。G353は、地球から見るとさそり座の方向に約5500光年離れた場所に位置しており、太陽のおよそ10倍の質量を持っています。さらに、地球からはG353を取り巻く円盤をほぼ真上から見ることができる、ということが過去の観測から明らかになっていました。これまでに詳しく調べられている大質量原始星の多くは円盤を横から見る形になっていたため、円盤の外側のガスと内側のガスが重なって見えてしまい、中心星のすぐ近くを調べることが困難でした。このため、G353は巨大原始星を取り巻く円盤の様子を詳しく調べるのにうってつけの天体といえます。
高い解像度を持つアルマ望遠鏡の観測により、巨大原始星の周囲の円盤構造が初めてはっきりと描き出されました。観測からは、巨大原始星を取り巻く円盤が半径250天文単位(1天文単位は地球と太陽の間の平均距離で、約1億5000万キロメートル)にまで広がっていることが明らかになりました。これは太陽系における海王星軌道の8倍以上の大きさに相当しますが、他の巨大原始星の周囲で見つかった円盤に比べると小さなものです。また、円盤の中でも中心星の東側が一段と強い電波を発していることも明らかになりました。これは円盤が非対称な構造を持つことを示しています。大質量原始星の周囲で非対称な円盤がとらえられたのも、これが初めてのことです。
元木氏は、「ガスが中心に落下していくペースを調べると、原始星の年齢を推測できます。これによると、G353の年齢はわずか3000歳ほどとなり、これまでに知られている大質量原始星の中では最も若いことがわかりました。赤ちゃん星の成長のもっとも初期の段階を見ていることになります」とコメントしています。
今回発見された円盤の質量は、太陽のおよそ2~7倍と見積もられています。中心星の質量が太陽の10倍ですから、円盤の質量が中心星の質量の20~70%もある、重い円盤ということになります。円盤の質量と内部のガスの運動を詳しく調べた結果、この円盤は安定に存在することはできず、今後分裂して中心星に落下していきやすい状態になっていることもわかりました。こうした不安定な状況にあるために、円盤に非対称な構造が生まれていたのです。これらはまさに、G353が活発に成長している途中段階にあることを示しています。
今回得られた観測結果は、これまでによく観測されている小質量原始星の周囲と性質がよく似ており、単純に規模を大きくしたものといえます。つまり、小質量原始星でも大質量原始星でも、成長過程そのものは似ているということを明確に示しています。元木氏は、「大質量原始星の周囲は温度が高く、円盤が安定化しやすいのでは無いかという認識がありましたが、 今回の観測で成長初期の重い円盤はやはり不安定になることが確かめられました。このことは円盤の力学状態が原始星へのガス供給にどのように影響するのか探る上で重要な発見です。また、ちぎれた円盤片は今後中心星へ落下するのか、はたまた円盤内に残ってきょうだい星を作るのかなど、考えるべき課題が新しく生まれてきたことも興味深いです。」と総括しています。
論文・研究チーム
この観測成果は、K. Motogi et al. “The first bird’s-eye view of the gravitationally unstable accretion disk in high mass star-formation” として、2019年5月29日(日本時間5月30日)発行の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に掲載されました。
今回の研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
元木業人(山口大学)、廣田朋也(国立天文台/総合研究大学院大学)、町田正博(九州大学)、米倉覚則(茨城大学)、本間希樹(国立天文台/総合研究大学院大学)、高桑繁久(鹿児島大学)、松下聡樹(台湾中央研究院天文及天文物理研究所)
この研究は、文部科学省/日本学術振興会科学研究費補助金(No. 15K17613, 19H05082, 16K05293, 17K05398, 18H05222, JP18K03703)、国立天文台ALMA共同科学研究事業2017-04Aの支援を受けて行われました