超新星の電波再増光が示す連星進化の道筋

前田啓一・京都大学大学院理学研究科教授(研究当時 同准教授)らの国際研究チームは、アルマ望遠鏡で超新星SN2018ivcの長期モニタリング観測を実施し、超新星からの電波発光が弱まった後、約1年経過後からミリ波帯で再増光したことを発見しました。理論モデルと比較することで、この大質量星が、爆発前の一生の末期に連星相互作用の影響を受け星の表面のガスを周囲に撒き散らした末に終焉を迎えたことが分かりました。このような電波再増光を示す超新星の発見は、大質量星進化における連星進化の役割を体系的に理解する上で、重要な成果です。

天文学者が想像する、大質量星の終焉の様子。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.

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図1 超新星SN2018ivcの爆発後、一度減光した後の電波再増光の想像図。この星が爆発前の一生の末期に連星相互作用の影響で星の表面のガスを周囲に撒き散らし、爆発で飛び散った星の残骸がそれに衝突することで時間差で電波放射が強くなったと考えられる。Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.

質量の大きな星(大質量星)はその一生の最期に「超新星爆発」と呼ばれる爆発を起こすとされています。大質量星が一生の末期にどのようにこの終焉に向かうのかは、現在の宇宙物理学の大きな謎の一つです。多くの大質量星は連星を成しており、相手の星(伴星)からどのような影響を受けるかが、終焉の迎え方を決めるポイントとなります。伴星の重力の影響を受けて、大質量星の表面のガス(星周ガス)が剝ぎ取られ、連星系の外に撒き散らされる場合が考えられますが、連星相互作用は短期間に発生するため、直接的に現場を観測することは非常に困難です。

そこで、前田啓一・京都大学大学院理学研究科教授、道山知成・大阪大学大学院理学研究科特任研究員(ALMA共同科学研究事業特任研究員)をはじめとする研究グループは、超新星からの電波観測に着目しました。爆発により飛び散った星の残骸は、光速の10%にも達する速度で周囲に膨張します。これが、終焉前の一生の末期において連星相互作用によって撒き散らされた星周ガスと衝突することで電波を放射します(シンクロトロン放射)。電波放射強度やその時間変化から逆算することで星周ガスの性質を特定し、そのガスを放出した恒星進化過程を調査することができます。

今回、研究グループは、近傍渦巻銀河M77で見つかった超新星SN2018ivcが出す電波を、アルマ望遠鏡を用いて数年にわたって観測しました。超新星によるミリ波の放射は爆発から200日後には弱まっていましたが、その後、爆発から約1年後以降に「再増光」するという珍しい観測結果を得ることに成功しました。センチ波における超新星の再増光はこれまでに何例か観測されていますが、センチ波におけるシンクロトロン放射は放射されても大部分がすぐに衝撃波や星周ガスに吸収されてしまうので、もともと放射された量を正確に知ることが困難です。アルマ望遠鏡により、星周物質の正確な情報を伝えるミリ波帯における超新星の再増光を、世界で初めて捉えることができました。

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図2 超新星爆発直後にハッブル宇宙望遠鏡によって撮像されたM77の可視光画像(左図)、超新星SN2018ivcの位置が示してある。アルマ望遠鏡による超新星SN2018ivcの爆発から約200日後の画像(右上)と約1000日後の画像(右下)は、超新星SN2018ivcの周囲を拡大したもの。約300-500日後の時点で始まったと考えられる、明確な再増光が確認できる。 Credit: (左)Based on observations made with the NASA/ESA Hubble Space Telescope, and obtained from the Hubble Legacy Archive, which is a collaboration between the Space Telescope Science Institute (STScI/NASA), the Space Telescope European Coordinating Facility (ST-ECF/ESA) and the Canadian Astronomy Data Centre (CADC/NRC/CSA). (右)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.

爆発後200日では、衝撃波はまだこの濃いガスに到達しておらず、その後、衝撃波が到達し、約1年後以降に再増光が観測されたと考えられます。この増光の強度とその時間変化を理論による予測と比較することで、超新星爆発の位置から0.1光年ほどの距離に、爆発前のこの星からばらまかれた濃いガスが分布していると推測され、さらに、このようなガスの分布は、超新星爆発の約1500年前に連星相互作用により星周ガスが剥ぎ取られた場合に実現すると推測されました。

「大質量星の一生について、連星系を成さない場合や連星の軌道半径が長い場合は、生涯、連星相互作用の影響を受けない『単独星進化』の経路を辿り、軌道半径が短い場合は、爆発のずっと前に連星相互作用を起こして進化最終期では静かな状態で超新星爆発を起こす『連星進化』の経路を辿ると考えられています。その中間の場合については、観測的証拠が見つかっておらず、大質量星の一生についての体系的な理解が欠けた部分――『ミッシングリンク』となっていました。今回の成果は、この部分を埋める、非常に重要な成果です。」と、京都大学大学院理学研究科の前田啓一教授は語っています。

また、データ解析を担当した大阪大学大学院理学研究科の道山知成特任研究員は、本成果がアルマ望遠鏡の柔軟な運用体制により時間軸天文学を実現した点を強調しています。「アルマ望遠鏡では、突発天体現象の出現を受けて、予定されていた観測スケジュールに割り込んで観測を行う体制があります(ToO観測((ToO観測: Target-of-Opportunity観測)))。私たちはまず、超新星爆発のToO観測を行いました。その後、母銀河M77のアルマ望遠鏡アーカイブデータを用いて長期モニタリングが実現し、ミリ波増光の傾向を捉えました。モデル計算にはさらに詳細な観測が必要であるため、通常の観測提案スケジュール以外に、即時性を求められる観測などを随時観測提案が可能な枠で観測しました。」と、観測の経緯を振り返ります。前田教授は、「宇宙には、重力波を放出する連星中性子合体、恒星同士の合体現象、新星爆発や恒星の表面爆発など、超新星以外にも様々な突発的爆発現象が存在します。今回の成果はアルマ望遠鏡がこうした突発現象観測においてユニークな地位を占め得ることを示したものともいえます。」と、今後のアルマ望遠鏡の突発天体現象観測による成果への期待を述べています。

[謝辞]

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院科技部(MoST)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

本研究は、JSPS科研費(JP18H05223、JP20H00174、JP20H04737、JP21K03632、JP22K14073)、ALMA共同科学研究事業(2021-17A)、ALMA共同利用サポート(NAOJ-ALMA-269)、JSPS二国間交流事業(JPJSBP120229923)、フィンランド・アカデミー研究助成(324504, 328898)による助成を受けたものです。

[論文情報]

この研究成果は “Resurrection of Type IIL Supernova 2018ivc: Implications for a Binary Evolution Sequence Connecting Hydrogen-rich and Hydrogen-poor Progenitors” として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に2023年3月1日付で掲載されました
(doi: 10.3847/2041-8213/acb25e)

著者:前田啓一(京都大学)、道山知成(大阪大学、国立天文台)、Poonam Chandra(米国立電波天文台)、Stuart Ryder (マッコリー大学)、Hanindyo Kuncarayakti(トゥルク大学)、平松大地 (ハーバード大学、ラス・クンブレス天文台、カリフォルニア大学), 今西 昌俊(国立天文台、総合研究大学院大学)

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