世界初!宇宙空間の多くの分子からの電波を同時に受信するシステムの開発に成功
―宇宙の進化や星・惑星が形成されるメカニズムの解明に向けて―

大阪府立大学大学院理学系研究科宇宙物理学研究室と、国立天文台のアルマプロジェクト・先端技術センターは、星が生まれる現場にある様々な分子から放出される電波を、今までと比べて数多く同時に観測できる新しい受信システムの開発・試験観測に世界で初めて成功しました。この開発を応用することにより、宇宙の進化や星・惑星が形成されるメカニズムの研究に大きな進歩がもたらされると期待されます。

宇宙に浮かぶ星の間には、星や惑星のもとになる星間物質(ガスやチリのあつまり:星間分子雲として観測されます)が存在し、その中には数多くの分子が含まれています。分子はその種類ごとに異なった周波数の電波で輝いており、様々な分子が放つ電波は非常に広い周波数範囲にわたって検出されています。様々な分子が放つ電波を観測することで、星間分子雲の性質や化学組成を知ることができ、星や惑星が生まれる様子を明らかにすることにつながります。このため、広い周波数範囲を一度に観測できる受信システムの開発が追求されてきました。

一般に、電波望遠鏡で一度に観測できる電波の範囲(周波数帯域)は、ごく一部に限られています。これは、電波受信機を構成する様々なコンポーネントの特性に起因します。本研究では、電波受信機へと電波を取り入れるホーンや、電波を伝搬させる導波管(中空の金属管)回路、電波の周波数変換部など、様々なコンポーネントの広帯域化を行いました。それを受信機システム全体として結合することにより、受信できる電波の周波数帯域を従来よりも数倍に拡大することに成功しました。さらに、この受信機システムを大阪府立大学の1.85m電波望遠鏡(国立天文台野辺山宇宙電波観測所内に設置)に搭載し、実際の天体からの電波をとらえることに成功しました。これは、本研究成果が実際の天文学観測においても極めて有用であることを示すものです。

 

2021-07-06 164904

図:今回開発された広帯域受信機で同時に観測された、一酸化炭素分子とその同位体分子からの6つの電波輝線。観測した天体は、オリオン大星雲内の「オリオンKL」と呼ばれる領域です。
Credit: 大阪府立大学/国立天文台

 

otf_OrionKL_combined

今回開発された広帯域受信機で同時に観測された、オリオン座分子雲のガスの広がり。同位体分子によって広がりが異なることがわかります。C18O (J=3-2)輝線の観測も行われましたが、画像を得るには電波の強度が弱かったため、表示していません。
Credit: 大阪府立大学/国立天文台

 

今回対象となる電波は波長1mm前後のミリ波・サブミリ波(テラヘルツ波)に相当します。望遠鏡のパラボラで集められた電波は、ホーンにより導波管(波長程度の大きさを持つ中空の金属管)回路の中に導かれ伝搬します。その後、ヘテロダイン受信(対象となる電波に近い周波数の参照電波を重ね合わせることにより、その差周波成分を取り出す方法)により低い周波数に変換され(中間周波数)、その後分光計に入力されます。分光計では、周波数ごとの電波強度を調べることができます。分子からは、分子ごとに特有の周波数の電波が放出されているため、どの分子からどのような強さの電波が放出されているかを調べることができるのです。

 

大阪府立大

今回開発した受信機システムの写真。アンテナで集められた電波は写真左下のホーンを通って受信機に導かれ、矢印で示した経路に沿って進み、出力されます
Credit: 大阪府立大学

 

今回の開発では、ホーンでの電波受信の広帯域化(Yamasaki et al.)と中間周波数変換部の広帯域化(Masui et al.)を実現して、全体での広帯域化に成功しました。例えば、現在のアルマ望遠鏡では、Band 6 (211-275GHz), Band 7 (275-373GHz)は別々の受信機で受信していますが、本観測でBand 6+7すべての周波数範囲(210-375GHz)を同時に受信できることになります。また、中間周波数帯(実際に分光計で分光できる周波数範囲)は4-8GHzの帯域が一般的でしたが、今回は4-21GHzへの広帯域化に成功しました。これらの性能を持つ受信機を実際の望遠鏡に搭載して星間分子の電波を受信したのは世界で初めてです。

 

ブロック図_1

ブロック図_2

今回開発された広帯域受信機システムとアルマ望遠鏡バンド7受信機の模式図。
Credit: 大阪府立大学/国立天文台

 

グラフ日本

今回開発された広帯域受信機システムと、アルマ望遠鏡バンド6・7受信機の観測可能周波数帯の模式図。いずれも濃い色の部分が同時に観測できる周波数帯域を表しています。アルマ望遠鏡バンド6受信機を使えば5.5 GHz幅の領域をふたつ、バンド7受信機を使えば4GHz幅の領域をふたつ同時に観測できますが、今回開発された広帯域受信機システムは4GHz幅の領域をふたつと17GHz幅の領域をひとつ観測でき、非常に広い周波数帯の電波を検出できることがわかります。
Credit: 大阪府立大学/国立天文台

 

多様な分子が放つ様々な電波を一度に検出できるこの技術により、1.85m電波望遠鏡を用いて天の川銀河に沿った星間分子雲を一層効率的で詳細に観測することが可能となりました。また、これまでに様々な成果を上げてきた巨大電波望遠鏡「アルマ」の性能をさらに向上させるための「アルマ望遠鏡将来開発ロードマップ」や「アルマ2計画」においても受信機の広帯域化が重点項目として取り上げられており、本成果はアルマ望遠鏡や他の大型電波望遠鏡への応用が期待されます。これにより、銀河の進化や星・惑星系の形成メカニズムなど、宇宙の進化の解明に大きな貢献をもたらします。

今回の受信機開発と試験観測についてまとめた論文の筆頭著者である大阪府立大学大学院理学系研究科物理科学専攻博士課程2年の増井翔氏は、「本広帯域受信機の開発の初期から観測の成功までに携わることができて、非常に貴重な体験をすることができました。お世話になった多くの方々には大変感謝しております。これらの経験を活かし、今後も装置開発の観点から、さらなる天文学の発展に向けて精進していきたいと思います。」とコメントしています。

また、今回の開発の中でも広帯域ホーンと光学系について詳述した論文の筆頭著者である同博士課程1年の山崎康正氏は、「自分達で作り上げた受信機でオリオン座からの電波を初めて受信し、メンバーと喜びを分かち合えた瞬間は感無量でした。この成果は関係する多くの方々の協力によって成し遂げられたものだと感じています。皆様に心より感謝するとともに、これからも天文学に貢献できるよう精進したいと思っています。」と語っています。
 

論文情報
この研究成果は、以下の2本の論文として、日本天文学会欧文研究報告 (Publications of the Astronomical Society of Japan)で公開されます。
– S. Masui et al. “Development of a new wideband heterodyne receiver system for the Osaka 1.85 m mm–submm telescope: Receiver development and the first light of simultaneous observations in 230 GHz and 345 GHz bands with an SIS-mixer with 4–21 GHz IF output
– Y. Yamasaki et al. “Development of a new wideband heterodyne receiver system for the Osaka 1.85 m mm–submm telescope: Corrugated horn and optics covering the 210–375 GHz band

この研究は、新学術領域研究・計画研究「巨大分子雲における星団形成機構の観測的解明(研究代表:大西利和)」(科学研究費助成事業JP18H05440)及び文部科学省/日本学術振興会科学研究費頬金(JP20J23670, JP15K05025, JP26247026)の支援を受けて行われました。

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