太陽系の惑星も太陽系外惑星も、若い星のまわりにできるガスと塵の円盤「原始惑星系円盤」の中で生まれました。アルマ望遠鏡は、その高い解像度を活かして、これまでにたくさんの惑星誕生現場を撮影してきました。その多くは、同心円状のリングやすき間といった構造があり、まさに生まれつつある惑星がそこにある可能性を示しています。もっとも有名な例としては、おうし座HL星 や うみへび座TW星 の円盤が挙げられます。
しかし、すべての原始惑星系円盤がこれほど整った形をしているとは限りません。今回アルマ望遠鏡が観測した「おおかみ座RU星」(地球からの距離約520光年)は、ガスでできた立派な渦巻き腕を持っていることが明らかになりました。その大きさは、およそ1000天文単位(1天文単位は地球と太陽の間の平均距離で、約1億5000万キロメートル)にも及びます。この星の周囲に見つかっていた塵の円盤の大きさは60天文単位でしたから、これよりもずっと大きいことになります。
おおかみ座RU星は、これまでにもアルマ望遠鏡で観測されていました。DSHARP と名付けられたプロジェクトでは、この星を取り巻く塵の円盤にリング模様があることが明らかになっています。これは、円盤内に今まさに形成途中の惑星がある可能性を示しています。
「私たちは、円盤の外側にかすかに一酸化炭素分子ガスが広がっていることに気づきました。そこで、今回は塵ではなくガスの分布に注目することにしたのです。」と、今回の研究論文の筆頭著者であるジェーン・ファン氏(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)はコメントしています。
原始惑星系円盤には、実は塵よりもガスのほうが豊富に含まれます。塵は惑星の「種」を作るために必要ですが、ガスは惑星の大気の材料になります。
アルマ望遠鏡が行ってきた原始惑星系円盤に含まれる塵の観測は、惑星形成に対する私たちの理解を大きく変革しました。しかし今回得られたガスの分布は、その理解ですらも単純化しすぎたものであったことを示しています。塵の円盤は非常にきれいにそろったリング構造をしていましたが、このことから推測されるよりも実際の惑星誕生の現場はずっとカオスな状態にあるというのです。
「アルマ望遠鏡を使った長時間観測の結果としてガスの渦巻き模様が見えてきたということは、これまで私たちは惑星形成環境の全貌をとらえきれていなかった、ということになります。他の原始惑星系円盤でも、ガスの構造を見逃しているかもしれません。」とファン氏は語ります。
ファン氏らの研究チームは、ガスの渦巻き模様ができる原因について、複数のシナリオを提示しています。ガス円盤は質量が大きいため、もしかしたら自らの重力で形がくずれつつあるのかもしれません。または、おおかみ座RU星に別の星が近づき、その重力の影響で円盤が波立ったのかもしれません。さらには、円盤を取り囲む星間物質がこの渦巻腕に沿って星に流れ込んでいる可能性も提示されています。
チームのメンバーであるショーン・アンドリュース氏(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)は、「これらのどの説も、私たちの観測結果を完全には説明することができません。私たちがまだ知らないメカニズムが惑星形成の途中で生じているのかもしれません。おおかみ座RU星と似た構造の円盤を持つ別の星が見つかれば、謎をとく手がかりが得られるでしょう。」とコメントしています。
この記事は、米国立電波天文台のプレスリリース”ALMA Captures Stirred-Up Planet Factory” をもとに作成しました。
論文情報
この観測成果は、J. Huang et al.“Large-scale CO spiral arms and complex kinematics associated with the T Tauri star RU Lup”として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に2020年8月に掲載されます。