アルマ望遠鏡で調べる星の「種」

星々の間にただよう低温のガスや塵は、星の材料です。この材料が集まっている場所を、「分子雲」と呼びます。分子雲の中でも特にガスや塵が濃く集まっているところは「分子雲コア」と呼ばれます。アルマ望遠鏡を使った研究で、この分子雲コアの中に複雑な構造があることがわかりました。まさに誕生直前の星の「種」といえます。

G205-EAO

オリオン座分子雲の中に位置する分子雲コア“G205.46-14.56M3”の中に、複数の小さなガスのかたまりがあることがわかりました。画像右上:ハワイにあるジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡の電波カメラSCUBA2で観測された分子雲コア。画像右下:アルマ望遠鏡が撮影した、分子雲コアの内部構造。電波が強い場所が2か所あり、分子雲コア内部に複雑な構造があることがわかります。
Credit: ASIAA/Wei-Hao Wang/ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/Tie Liu/Sahu et al.

 
星の誕生過程を理解するには、その最初期である星の「種」の性質を調べることが重要です。これまで、分子雲コアの中に星の「種」を探そうと天文学者は研究を続けていましたが、これまではっきりと見ることは困難でした。その理由は、「種」から星が生まれるまでの時間が非常に短いために「種」の状態を見られるタイミングが限られることと、そもそも濃いガス雲の中に隠れた小さな「種」を検出すること自体が難しかったことです。

オリオン座には、比較的地球に近い有名な星形成領域があります。台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)のディペン・サフ氏をはじめとする台湾、中国、日本、韓国の国際研究チームは、オリオン座分子雲にある低温分子雲コアの観測を行いました。分子雲コアに含まれる塵が星の光をさえぎるため、光の望遠鏡では分子雲コアに埋もれた星の「種」を探すことができません。研究チームは塵が放つ電波をとらえるために、ハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(JCMT)を使って観測を行いました。

上海天文台のティエ・リュウ氏は、「JCMTは、分子雲コアを探すのにうってつけです。JCMTには冷たいガスが集まった場所を見つけるのに必要な感度を持っていて、スピーディーに星の生まれる場所を探すことができます。」と語っています。

JCMTによる観測で星の形成場所の候補を見つけた後、研究チームはアルマ望遠鏡を使ってより詳しい観測を行いました。2018年から2019年にかけて、1000天文単位(1天文単位は地球と太陽の間の平均距離)の解像度で、5つの分子雲コア内部でガスや塵が非常に密集した領域の探索を行いました。G205.46-14.56M3と名付けられた分子雲コアでは、内部に複数のガス塊があることが明らかになりました。発見されたガス塊は高い密度を有しており、星の「種」といえます。個々が星になることで最終的には連星系ができるだろうと研究チームは考えています。

ASIAAのシェンヤン・リュウ氏は、「アルマ望遠鏡は、その比類なき感度と解像度でかすかなガス塊を私たちにはっきり見せてくれました。双子や三つ子の赤ちゃん星を見つけることはよくありますが、今回の発見は黄身がふたつある卵を見つけたようなものです」とコメントしています。

G205.46-14.56M3の内部構造がどのように作られたのかは、まだはっきりしていません。おそらく、ガスの動き、重力、そして磁場が複雑に絡み合って作られたと考えられます。今回の観測ではわかったのは、ガスと塵の分布だけでした。ガスがどのように動き、磁場がどのように分布しているかを明らかにすることができれば、星の「種」の形成メカニズムを明らかにすることができるでしょう

ディペン・サフ氏は、「一握りの数の星の種を見つけたことは、まだ始まりにすぎません。JCMTやアルマ望遠鏡の力を合わせることで、今後どんな発見がもたらされるか、とても楽しみにしています。」と語っています。

この記事は、2021年2月22日付で公開された ASIAA Science Highlights に基づいて作成しました。

 
論文情報
この観測成果は、Sahu et al. “ALMA Survey of Orion Planck Galactic Cold Clumps (ALMASOP): Detection of Extremely High-density Compact Structure of Prestellar Cores and Multiple Substructures Within”として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズに」2021年1月19日付で掲載されました。

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