重い星は軽い種からできる

東京大学/国立天文台の大学院生 森井嘉穂氏、国立天文台のパトリシオ・サヌエーサ特任助教、中村文隆准教授らの国際研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、太陽よりも8倍以上の質量をもつ星、大質量星が誕生すると期待される領域でこれまでにないほど多くの”星の種”を発見しました。このような統計的に有意なサンプルを用いることで、天文学の未解決問題の一つである、大質量星がどのようにできるのかを議論することが可能になりました。過去最大のサンプルを注意深く調べることで、雲に埋もれていた星の種の質量や密度、分布などを明らかにしました。従来の小質量星形成モデルでは、星の種は形成される星の質量の2~3倍ほど重い必要がありますが、それとは矛盾して、大質量星形成には、星の種がガスをさらに集める必要があることが分かりました。
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アルマ望遠鏡で明らかになった赤外線暗黒星雲の内部構造の想像図。星の材料であるガスと塵の分布を、密度が高くなるにつれ青から白色で表している。形成されたばかりの赤ちゃん星の中には、ガスを噴出するものがあり、ピンク色で表されている。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Morii et al.

大質量星は、生命に必要な物質の生成に重要な役割を果たしており、形成後は周囲の環境に大きな影響を及ぼす、非常にエネルギッシュで重要な存在です。しかし、それらは太陽のような星(小質量星)と比べると非常に希少で、遠方に位置していることから、大質量星の形成過程は未だ確立しておらず、小質量星形成と比べて不明な点が多く残っています。

大質量星がどのように誕生したのか、太陽のような星と同様にできているのかを探るため、研究チームは、このような重たい星が誕生すると期待されるものの、まだ星が形成されていない静穏な領域を対象に選びました。星形成の初期段階を明らかにし、形成過程を議論するには、小質量星形成領域における先行研究相応の、星の種を識別できるほどの観測性能が求められます。さらに、典型的な星の種の性質を知るには、統計的な研究、大きなサンプル数が必要です。

研究チームは、大質量かつ高密度で大質量星をつくると期待される雲39領域をアルマ望遠鏡で観測しました。これらの雲は赤外線観測では暗いシルエットとしてみえることから、赤外線暗黒星雲として知られています。対象とした赤外線暗黒星雲は、冷たく、これまでに星が形成されている兆候が見つかっていなかったことから、大質量星が誕生する前の状態と考えられ、星の形成過程を調べる最適な環境だと考えられます。アルマ望遠鏡による電波の観測では、冷たい塵やガスが密集した星の種を見ることができます。
研究者たちは、39領域の観測から、雲に埋もれている、分子雲コアと呼ばれる800個以上の星の種を検出しました(図2)。これは、赤外線暗黒星雲で特定されたこれまでで最大のサンプルです。コアは、将来の大質量星形成の最も有望な場所を表しています。この素晴らしい成果は、高感度、高空間分解能、そして効率的なマッピング能力を持つアルマ望遠鏡によって可能になりました。

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図2 アルマ望遠鏡で観測した39領域の塵の分布。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Morii et al.

小質量星の形成シナリオでは、初期のコア質量の約30〜50%が星の質量に変換され、残りのほとんどは赤ちゃん星から噴き出すガス流(アウトフロー)として放出されます。同様に大質量星も形成されると仮定すると、驚くべきことに、これらの星の種の99%以上は大質量星を形成するのに必要な質量をもっていないことが明らかになりました。本研究は、大質量星形成領域にあるコアは、周囲のガスを取り込むことで成長する必要があると示唆しています。これらの結果は、大質量星は小質量星とは異なる星の形成メカニズムが存在することを支持しています。

さらに、研究チームはコアの分布も調べました。星の集団をみると、大質量星はまとまって、小質量星は散らばって存在しています。もし大質量星が大質量なコアから形成されるとすると、星の種の段階においても大質量コアと小質量コアの分布に違いがみられるのではと期待されます。この観測で得られた統計データを分析して調査すると、期待に反し、大質量のコアも小質量のコアと同様に散らばって分布している様子が視られました。代わりに、より密度の高いコアが集まって存在する傾向がありました。これは、大質量のコアよりも密度の高いコアが、大質量星に成長する可能性を示唆しています。

森井氏は、「大質量星形成が小質量星とは異なる成長シナリオをもつ可能性を、これまでの研究よりも多くのサンプルからより確実に示しました。また、クラスター内のより密度の高いコアは周囲の物質を蓄積することでより効率的に成長する可能性があると推測できます。大質量星形成の初期段階では、星の種の初期質量よりもその密度が重要であるようです。」と述べています。

パトリシオ・サヌエーサ氏は、この結果の将来への重要性を次のように説明しています。「この研究によって生成された星の種のカタログは、大質量星の形成を理解し、既存のモデルを洗練するための重要な基盤となります。」
論文情報
この研究成果は Kaho Morii et al. “The ALMA Survey of 70μm Dark High-mass Clumps in Early Stages (ASHES). IX. Physical Properties and Spatial Distribution of Cores in IRDCs ” として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に2023年6月20日(米国東部時間)付で掲載されます (doi: 10.3847/1538-4357/acccea.)

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP22J21529、JP22H01271、JP23H01221)、東京大学国際卓越大学院教育プログラム(FoPM)、DFG in the Collaborative Research Center SFB 881 (Project ID 138713538) “The Milky Way System” (subproject B1)、ANID BASAL project (FB210003) の支援を受けて行われました。

アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾国家科学及技術委員会(NSTC)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宇宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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