アルマ望遠鏡、乱流に満ちた大量の低温ガスを遠方銀河で発見

アルマ望遠鏡による観測で、遠方の爆発的星形成銀河の周囲を取り巻く大量の冷たいガスが見つかりました。CH+という分子イオンが放つ電波の検出に初めて成功したことで、宇宙の歴史の中で星が最も多く生まれていた時期を調べる新たな手法を獲得することができました。猛烈な勢いで進む星形成がどうして長続きするのか、という謎に対して、この分子イオンの存在は新しい光を当てるものです。

宇宙初期の銀河は、私たちの住む天の川銀河の数百倍という猛烈な勢いで星を生み出していたことが知られています。このような銀河を、爆発的星形成銀河(スターバースト銀河)と呼びます。爆発的星形成銀河はその後の銀河進化に大きな影響を与えたと考えられていますが、ひとつ謎がありました。猛烈な勢いで星を作った結果、できた星の光の圧力や超新星爆発の圧力などにより星の材料であるガスが銀河外に押し出されてしまい、爆発的星形成が長くは続かないのです。しかし長期にわたって爆発的星形成を続ける銀河もあり、どのようにして星の材料を確保しているのか、わかっていませんでした。

フランス高等師範学校/パリ天文台のエディス・ファルガロン氏らのチームは、アルマ望遠鏡を使って、地球からおよそ110億光年の距離にある爆発的星形成銀河を6個観測し、CH+が放つ電波を検出しました。

ALMA-Image-Eyelash

アルマ望遠鏡が観測した、非常に遠方の爆発的星形成銀河。Cosmic Eyelash(宇宙のまつげ)というニックネームで呼ばれています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/E. Falgarone et al.

欧州南天天文台の天文学者で論文の共著者であるマーティン・ズワーン氏は、この分子を観測した理由について以下のように述べています。「CH+は特別な分子です。この分子が作られるには高いエネルギーが必要で、しかもほかの分子や原子とすぐに化学反応を起こしてしまいます。このため、CH+という形で存在できる時間は非常に限られていて、作られた場所からそれほど遠くまで運ばれることはありません。つまりCH+は、銀河やそのまわりでどのようにエネルギーが分布しているかを調べるのにうってつけなのです。」

CH+が放つ電波でエネルギーの分布を調べることは、以下のような現象でたとえられます。月のない暗い夜、熱帯の海で小さなボートに乗っている様子を想像してください。条件が良ければ、光を発するプランクトン(夜光虫)がボートのまわりでほのかに輝きます。ボートが進むことで波が立ち、その刺激で夜光虫が光を発するのです。あたりが真っ暗で波が見えなくても、夜光虫の光をたどれば波が立っている場所がわかります。CH+の場合、この分子イオンは銀河のガスのなかでも乱流運動が活発な場所で作られるため、CH+が電波を放っている場所は高エネルギー領域といえるのです。

CH+の観測から、銀河の中の星形成領域から高温高速のガス流(銀河風)が噴き出し、衝撃波を作り出していることがわかりました。銀河風は銀河の中を駆け抜け、衝撃波を作りながら星の材料であるガスを銀河の外に押し出します。しかし押し出されたガスは、銀河自身の重力によって引き戻されるようです。銀河風に与えられたエネルギーによってガスが一方向に飛び出すのではなく、ガス内部の乱流としてエネルギーが消費されるため、結果として銀河の重力を振り切ることができなくなるのです。こうして戻ってきたガスは、比較的低温低密度のガスとなって、銀河の周囲に3万光年以上の広がりを持って漂っています。このガスは再び銀河の中に戻り、星の材料になります。

爆発的星形成銀河とそのガスの動きの模式図

爆発的星形成銀河の周囲のガスの模式図。中心で非常に活発に星が作られていて(オレンジ)、ガスが噴き出しています。噴き出したガスの中には乱流が渦巻いていて、銀河のまわりに分布しています(緑)。これが今回CH+の電波観測によって明らかになったガスです。このほか、銀河の外からガスが流れ込んでもいるようです(青)。
Credit: ESO/L. Benassi

「CH+の電波を調べることで、銀河をおおうほどの規模の銀河風に蓄えられていたエネルギーが、これまで見えていなかった冷たいガスの乱流に形を変えていることがわかりました。」と論文の筆頭著者であるファルガロン氏は語っています。「私たちが導き出した結果は、銀河進化の理論に挑戦状をたたきつけるものになりました。冷たいガスの乱流を引き起こすことで、銀河風が爆発的星形成を止めるのではなく、むしろ長続きさせる作用があることがわかったからです。」

研究チームの解析によると、銀河風だけでは今回発見された冷たいガスを説明することができないようです。これまでの理論的研究で示唆されていた通り、銀河衝突などによって外からガスをいくらか継ぎ足してやる必要があります。

欧州南天天文台のロブ・アイビソン氏は「この発見は、初期宇宙で最も活発に星を作る爆発的星形成銀河で、ガスの流れがどのように制御されているのかを理解するための大きな一歩といえます。」と語っています。

論文・研究チーム
この研究成果は、Falgarone et al. “Large turbulent reservoirs of cold molecular gas around high redshift starburst galaxies”として、2017年8月30日発行の英国の科学誌「ネイチャー」に掲載されました。

研究チームのメンバーは、以下の通りです。
E. Falgarone (Ecole Normale Supérieure and Observatoire de Paris, France), M.A. Zwaan (ESO, Germany), B. Godard (Ecole Normale Supérieure and Observatoire de Paris, France), E. Bergin (University of Michigan, USA), R.J. Ivison (ESO, Germany; University of Edinburgh, UK), P. M. Andreani (ESO, Germany), F. Bournaud (CEA/AIM, France), R. S. Bussmann (Cornell University, USA), D. Elbaz (CEA/AIM, France), A. Omont (IAP, CNRS, Sorbonne Universités, France), I. Oteo (University of Edinburgh, UK; ESO, Germany) and F. Walter (Max-Planck-Institut für Astronomie, Germany)

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