「Virgo Environment Traced in Carbon Monoxide Survey(VERTICO、一酸化炭素サーベイによるおとめ座銀河団環境調査)」と名付けられたこの研究プログラムは、星の形成と宇宙における銀河の役割をより深く理解することを目的としています。カナダ国立研究評議会のプラスケットフェローであり、本論文の筆頭著者であるトビー・ブラウン氏は、「銀河がその環境のせいで星形成活動を止められていることはわかっていますが、その理由を知りたいと思っています。VERTICOが従来以上に明らかにしたのは、どの物理的プロセスが分子ガスに影響を与え、それがどのように銀河の『生死』を左右するかということです」と語っています。
銀河は大きな星の集合体であり、その誕生、進化、そして死(星形成活動の終焉)は、その銀河が宇宙のどこにあって周囲の環境とどのように相互作用しているかに大きな影響を受けています。特に銀河団は宇宙の中でも最も過酷な環境であり、銀河の進化を研究する天文学者にとっては特に興味深い場所といえます。
2,000個の銀河を擁するおとめ座銀河団は、天の川銀河が存在する局所銀河群の隣にある銀河団です。その大きさと近さから、おとめ座銀河団は数ある銀河団の中でも研究しやすい対象ですが、それ以外にも観測に適した特徴があります。VERTICOプロジェクトの共同研究者であるマクマスター大学特別教授のクリスティーン・ウィルソン氏は、「おとめ座銀河団は、星を作り続けている銀河の数が比較的多いという点で、少し変わっています。宇宙の多くの銀河団は、ガスが少なく星の形成をほとんどしていない『赤い銀河』で占められているのです」とコメントしています。
VERTICOプロジェクトによる研究では、おとめ座銀河団にある51個の銀河のガスをこれまでになく高解像度で観測しました。その結果、銀河全体が星を形成するのを止めてしまうほど周囲の環境が過酷であることを明らかにしました。ブラウン氏は、「おとめ座銀河団は、100万度のプラズマ、極端に高速の銀河、銀河とその周囲の激しい相互作用があるのに加えて、『引退した銀河のたまり場』あるいは『銀河の墓場』とも呼べるような場所が混在する、近傍宇宙の中でも最も極端な領域です」とその特徴を説明します。今回の研究で、こうした極端な環境が銀河のガスを引きはがすことによって、宇宙で最も重要な物理的プロセスのひとつである星の形成がどのように阻害されるのかが明らかになりました。ブラウン氏は「ガスの引きはがしは、銀河の星形成を停止させる最も壮大で暴力的な外的要因の1つです。これは銀河が銀河団内の高温プラズマの中を高速で移動しているときに起こる現象で、あたかも巨大なほうきでガスが掃き出されるように、膨大な量の冷たい分子ガスが銀河から剥ぎ取られていきます。VERTICOの精緻な観測によって、このようなメカニズムをよりよく見て理解することができるのです」と語っています。
今回の研究で得られたデータには、環境が銀河にどのような影響を与え、それによって銀河がどのように星形成活動を停止するのかという、残された謎を解明するための手がかりが含まれている可能性があります。ウィルソン氏は「銀河団の環境が銀河内の分子ガスにどのような影響を与えているのか、また、それらの環境が銀河の『死』にどのような影響を与えているのかについては、長年にわたり多くの疑問がありました。我々にはまだやるべきことがありますが、VERTICOによってこれらの疑問にきっぱりと答えることができると確信しています。」とコメントしています。
この記事は、米国立電波天文台が2021年10月27日付で発表した記事をもとに作成しました。