2021.11.08
アルマ望遠鏡、130億年前の銀河に水分子を発見
SPT0311-58は、実際には2つの銀河で構成されています。この銀河があった130億年前の時代 [1] は、「宇宙再電離期」と呼ばれる頃でした。宇宙再電離は、宇宙誕生後およそ8億年ごろに起きたと考えられており、最初の星や銀河が誕生していた時期でもあります。研究者たちは、SPT0311-58を構成する2つの銀河が合体している可能性があると考えています。また、その急速な星形成活動のためにこの銀河のガス(星の材料)を使い切ってしまい、最終的には近傍宇宙で見られるような大規模な楕円銀河に進化する可能性があるとも考えています。
ジャルギュラ氏は、「2つの銀河の分子ガスをアルマ望遠鏡で高解像度観測した結果、2つの銀河のうち大きい方で水と一酸化炭素の分子を検出しました。酸素と炭素はごく初期に作られた元素であり、一酸化炭素や水といった分子になることで、私たちが知っているような生命にとって不可欠なものになります。この銀河は、宇宙がまだ非常に若かった時代において、現在知られている中で最も質量の大きい銀河です。この銀河は、宇宙初期の他の銀河に比べてガスや塵が多く豊富な分子を観測できる可能性があり、生命のもとになりうる元素が宇宙初期の進化にどのような影響を与えたかをより深く理解することができます」と述べています。
水分子は、水素分子、一酸化炭素分子に次いで宇宙で3番目に存在量が多い分子です。これまでの銀河の研究から、水分子の放射と塵(ちり)の遠赤外線放射に相関があることがわかっていました。塵は銀河内の星が放つ紫外線を吸収し、遠赤外線として再放射します。この遠赤外線が今度は水分子を励起し、私たちが観測できる水分子からの放射を生み出しているのです。この相関関係を利用すると、水からの放射強度が星形成の活発さの指標として使えます。はるか彼方の銀河での星形成の活発さを知る手掛かりになるのです。
宇宙で最初に形成された銀河を研究することは、太陽系や地球を含む宇宙全体の誕生と成長、進化をより深く理解するのに役立ちます。「初期の銀河は、天の川銀河の何千倍もの勢いで星を生み出しています。初期銀河のガスや塵の含有量を調べることで、どのくらいの数の星が形成されているのか、ガスが星に変わる速度はどのくらいなのか、銀河同士や星間物質との相互作用はどうなっているのかなど、銀河の特性を知ることができます」とジャルギュラ氏は説明します。
SPT0311-58や初期宇宙の銀河については、まだまだ研究すべきことがたくさんあります。「今回の研究は、宇宙のどこに、どの時代に水が存在するのかについての答えを提供しただけでなく、大きな疑問を投げかけています。宇宙の初期に、これほど多くのガスや塵がどのようにして集まって星や銀河を形成したのでしょうか。この答えを得るためには、SPT0311-58や類似の星形成銀河をさらに研究し、初期宇宙の構造形成と進化についての理解を深める必要があります」とジャルギュラ氏はコメントしています。
全米科学財団のアルマ望遠鏡プログラムディレクターであるジョー・ペス氏は、「この素晴らしい成果はアルマ望遠鏡の高い能力を示すものであり、初期宇宙の観測データがさらに充実したものになりました。地球上の生命にとって重要なこれらの分子は宇宙のかなり初期に形成されており、その観測は、現在とは全く異なる基本的なプロセスについての洞察を与えてくれます」と述べています。
この記事は、アメリカ国立電波天文台が2021年11月3日に公開したプレスリリースをもとに作成しました。
1 | アルマ望遠鏡の観測によると、SPT0311-58の赤方偏移は6.9でした。これをもとに宇宙論パラメータ(H0=67.3km/s/Mpc, Ωm=0.315, Λ=0.685: Planck 2013 Results)で光が飛んできた時間を計算すると、130億年となります。詳しくは「遠い天体の距離について」もご覧ください |
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