アルマ望遠鏡、最期を迎える星が噴き出すガスを克明にとらえる

アルマ望遠鏡による観測で、年老いた星から噴き出すガス「恒星風」がこれまでになく鮮明に撮影されました。多様で魅力的な姿を見せる惑星状星雲は、こうして噴き出すガスによって作られます。今回の観測で、星から噴き出した直後のガスが、非対称な形状をしているようすが撮影されました。ガスの非対称な形状は惑星状星雲によく似ており、両者の形が共通のメカニズムで決まっていることが示唆されます。またその形状が年老いた星からのガス放出率によって異なること、さらに年老いた星の周囲を回るお供の天体との距離によっても形状が変わることがわかりました。これは、複雑な形を取る惑星状星雲の形成メカニズムを明らかにする研究成果といえます。
wind-2020

年老いた星たちをアルマ望遠鏡で撮影した画像。星から噴き出すガスに含まれる一酸化炭素分子の分布を表していて、円盤状の構造や花びらのように幾重にも重なる構造、渦巻き模様など多彩な構造を持っていることがわかります。私たちに向かってくる方向に動くガスを青色、私たちから遠ざかる方向に動くガスを赤色で着色しています。
Credit: L. Decin, ESO/ALMA

 
太陽のような恒星は、年老いると大きく膨らんで温度が低下し、「赤色巨星」と呼ばれる星に進化します。赤色巨星の表面からは「恒星風」と呼ばれるガスが流れ出しており、星は次第にやせ細っていきます。進化がさらに進むと、星の高温の中心核がむき出しになり、そこから出る強い紫外線によって周囲のガスが輝くようになります。この段階を、「惑星状星雲」と呼びます。

これまでの観測では星のすぐ近くを観測することが難しかったのですが、その結果からは進化の進んだ星の約8割からは球対称に恒星風が噴き出しており、残りの2割の星からの恒星風は非対称な形をしていました。一方、惑星状星雲の形状は非常に多彩であることから、複雑な構造を持った惑星状星雲がどのようにして作られるのか、長年の謎とされてきました。

科学雑誌サイエンスに掲載された論文の筆頭著者であるリーン・デシーン氏(ベルギー、ルーベン・カトリック大学)は「太陽もやがて赤色巨星へと進化しますが、現在はとてもきれいな球形をしています。いろいろな形の惑星状星雲はどうやってできるのだろう?というのが私たちの疑問でした。」と今回の研究の出発点を説明しています。

デシーン氏のチームは、アルマ望遠鏡を用いて、14個の赤色巨星から噴き出す恒星風を高い解像度で観測し、星の近くでの恒星風のようすを撮影しました。そして、天体による構造の違いを比較するために、統一的なデータ解析を行いました。

データ解析の結果に、研究チームは驚きました。デシーン氏は、「私たちが見たものは、全く球対称からは外れたものでした。そのうちのいくつかは、惑星状星雲の形によく似ていたのです。」と語っています。球体である赤色巨星から非対称な恒星風が作られる、まさにその現場を見たことになります。さらに、赤色巨星からの恒星風と惑星状星雲の形状が似ていることは、これらが共通のメカニズムで作られることを示唆しています。

研究チームは、観測で得られた構造を「円盤型」「渦巻き型」「円錐型」の3種類に分類しました。3つに分類できたことは、恒星風の構造がランダムに作られているわけではないことを示しています。そして、赤色巨星のガス放出率によって、形状が異なることも見出しました。ガス放出率が大きい場合には渦巻き型になることが多く、ガス放出率が小さい場合には円盤状になりやすいのです。

では、そもそも球対称でない形状の恒星風ができるのはなぜでしょうか?年老いた星のすぐ近くにより低質量の伴星や惑星がある場合、その影響で恒星風の形が乱される可能性があります。これらの伴天体は非常に小さく暗いため、観測によって直接検出することは困難です。「コーヒーにミルクを注いでスプーンでかき混ぜると、ミルクは渦巻き模様になります。伴天体が周囲のガスを吸い込み、これが星の周囲を回ることによって、恒星風の構造が作られると考えられます。」とデシーン氏は説明しています。実際に研究チームは、理論モデルを使って、恒星風の形状が伴天体の影響で説明できることも明らかにしました。年老いた星と伴天体との間隔の違いによっても、恒星風の形状が変わるのです。

これらの結果を合わせることで、ガス放出率と伴天体との距離の違いによって恒星風の形状が進化する、という統一的なモデルを作り上げることに成功しました。

これまでの多くの恒星進化の理論計算は、太陽のような星が球対称に恒星風を噴き出すという過程に基づいていました。「今回の成果で、この状況は大きく変わります。これまで恒星風の構造の複雑さはあまり考慮に入れられていませんでしたから、恒星風による質量放出率の推定は最大で10倍ほど間違っていた可能性があるのです」とデシーン氏はコメントしています。研究チームは、恒星風の構造が恒星や銀河の進化にどのように影響を与えるのかについて、研究を続けています。

この研究は、太陽が最期を終えるときにどのような姿に変容するかについても示唆を与えてくれます。「太陽が一生を終えるとき周囲が渦巻き模様になるのか、あるいはチョウのような形か、はたまた別の形の星雲の中心にいることになるのか。これには、質量の大きい惑星である木星や土星が影響するのです。私たちの研究は、死にゆく太陽から噴き出す恒星風は、淡い渦巻き型になるだろうと予想しています。」とデシーン氏は語っています。

共同研究者のミゲール・モンタルジェス氏は「私たちは、画像を見て非常に興奮しました。ひとつひとつの星が個性を持って見えてきたのです。高解像度による観測で、星たちはもはや単なる点ではなくなりました。」とコメントしています。

この研究は、年老いた星の物理と化学を研究するATOMIUM(ALMA Tracing the Origins of Molecular In dUst-forming oxygen-rich M-type stars)プロジェクトの一環です。デシーン氏は「低温で年老いた星は単純で面白みのない天体だと思われることもありますが、今回の研究で、それはまったく違うことがはっきりしました。年老いた星は、自身が一生を終えた後にどんな姿になるかを語ってくれているのです。その中にはバラの花のような形をしたものがある(例えば、わし座R星からの恒星風)と気づくまでに少し時間がかかってしまいました。でもこれは、サン=テグジュペリの『星の王子様』のなかで『あなたが、あなたのバラをとても大切に思っているのは、そのバラの花のために時間を費やしたからだよ』と言っているのと同じことです。」と語っています。

 
論文情報
この観測成果は、L. Decin et al. “(Sub)stellar companions shape the winds of evolved stars”として、科学誌「サイエンス」2020年9月18日号に掲載されました。

この記事は、合同アルマ観測所の記事”Astronomers Capture Stellar Winds in Unprecedented Detail”をもとに作成しました。

NEW ARTICLES