赤ちゃん星と彗星にクロロメタンを発見 ―地球外生命の指標としては不適格か

アルマ望遠鏡を用いた観測で、生まれたばかりの赤ちゃん星が集まるIRAS 16293-2422のまわりに、クロロメタン(CH3Cl)が発見されました。また、ヨーロッパ宇宙機関の彗星探査機ロゼッタも、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星で同じくクロロメタンを発見しました。この分子は地球上では人間が工業的に作り出しているほか、微生物がその生命活動の一環として作り出していますが、宇宙にもこの分子が多く存在することが今回の発見で明らかになりました。

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赤外線天文衛星WISEが観測したへびつかい座の星形成領域。画像左寄りに原始連星系IRAS 16293-2422があります。枠内は、クロロメタンの分子構造の模式図です。
Credit: B. Saxton (NRAO/AUI/NSF); NASA/JPL-Caltech/UCLA

クロロメタン [1] クロロメタンは別名フロン40とも呼ばれ、以前は冷蔵庫などのための冷媒として広く使用されていましたが、高い毒性を持つため現在では利用されなくなっています。は、メタン(CH4)の水素の一つが塩素(Cl)で置き換えられた状態になっていて、有機ハロゲン化合物の一種です。有機ハロゲン化合物が星間空間で発見されたのは、今回が初めてのことです。

今回の発見は、ひょっとすると宇宙における生命を研究する研究者にとっては残念なニュースかもしれません。というのも、クロロメタンは生命存在のサインだと考えていた研究者がいるからです。アルマ望遠鏡とロゼッタの観測結果は、生命が存在しない彗星や赤ちゃん星のまわりで自然にクロロメタンが作られ、また十分長期にわたって壊れずに存在し続けることを示しているのです。このため、今後もし太陽系外惑星大気中にクロロメタンが見つかったとしても、生命の証拠とは言えないかもしれません。

アルマ望遠鏡による観測でクロロメタンが発見されたIRAS 16293-2422は、生まれて100万年程度の赤ちゃん星が連星系をなしている「原始連星系」です。地球から見ると、へびつかい座の方向およそ400光年の距離にあり、その周囲には星の材料になるガスや塵が多く残されています。この原始連星系は非常に多様な分子が存在することでとくに有名であり、これまでのアルマ望遠鏡の観測からも、もっとも単純な糖類分子であるグリコールアルデヒドや、アミノ酸の材料となるイソシアン酸メチル(CH3NCO)が発見されています。

「これほど若い星のまわりで有機ハロゲン化合物が見つかるとは、予想外でした」と、研究チームを率いたハーバード・スミソニアン天体物理学センターのエディス・ファヨール氏はその感想を述べています。「有機ハロゲン化合物がこんなところで作られているなんて思ってもいませんでした。しかも、大量に見つかったのです。今回の観測で、星が生まれる場所では、こうした分子が簡単に大量にできることが初めてわかったのです。これは、私たちの住む太陽系やその他の惑星系の化学的進化を読み解くうえで重要な発見です。」

「アルマ望遠鏡による有機ハロゲン化合物の発見は、できたばかりの惑星の上での化学反応がどんな初期条件で始まるのか、ということにヒントを与えてくれます。今回の研究によれば、有機ハロゲン化合物はいわゆる「原初のスープ」の構成要素だったと考えられます。」と、共同研究者のカリン・ウーベル氏は語っています。原初のスープとは、地球や他の岩石惑星ができたばかりのころにあった大気のことで、生命の材料を含んでいたと考えられます。

この観測では、アルマ望遠鏡は星間空間に浮かぶ分子が出す微弱な電波をとらえることで、実際には手の届かない非常に遠くの宇宙にあるガスの成分を分析することができました。分子はそれぞれ特有の波長の電波(輝線)を出すため、実験室で行われた実験結果と照合することで、宇宙空間にある分子の種類を特定することができるのです。また、分子は大きければ大きいほど幅広い波長帯にわたって多くの輝線を出しますが、個々の輝線は弱くなってしまいます。非常に高い感度をもつアルマ望遠鏡は、こうした弱い電波をとらえることができ、大型分子の検出に威力を発揮します。

彗星探査機ロゼッタは、搭載する分析装置ROSINAを使って、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星にクロロメタンを発見しました。ROSINAチームを率いるスイス・ベルン大学のキャスリン・アルウェグ氏は「ROSINAは、彗星のまわりを漂う分子を直接つかまえて、質量によって分類し、それを非常に精密に測定することができます。これによって、アルマ望遠鏡が遠い星のまわりで検出したのと同じ分子を見つけることができたのです。」とコメントしています。

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探査機ロゼッタがクロロメタンを発見した時の、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星と太陽・地球の位置の概略図。枠内は、クロロメタンの分子構造の模式図です。
Credit: B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

今回の一連の研究で特筆すべきことは、アルマ望遠鏡とロゼッタの観測結果を比較すると、クロロメタンの存在比率がほぼ同じであることです。「彗星は太陽系誕生時に惑星になりきれなかった残り物であり、昔の化学的特徴を保持している」とよく言われていますが、今回の観測結果はこの考えを支持するものです。

「しかし、また新たな疑問が浮かんできます。彗星で見つかる有機物のうちのどれくらいの割合が、星が生まれた時代からずっと残っているものなのでしょうか。他の赤ちゃん星や彗星で有機ハロゲン化合物を探すことで、この謎の答えを得ることができるでしょう。」と、ファヨール氏は語っています。

論文・研究チーム
この観測成果は、Fayolle et al. “Protostellar and Cometary Detections of Organohalogens”として、天文学専門誌「ネイチャー・アストロノミー」に掲載されます。

この研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Edith C. Fayolle (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics: CfA), Karin I. O berg (Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics), Jes K. Jørgensen (University of Copenhagen), Kathrin Altwegg (University of Bern), Hannah Calcutt (University of Copenhagen), Holger S. P. Muller (Universität zu Köln), Martin Rubin (University of Bern), Matthijs H. D. van der Wiel (ASTRON), Per Bjerkeli (Chalmers University of Technology), Tyler L. Bourke (SKA Organization), Audrey Coutens (University College London), Ewine F. van Dishoeck (Leiden University/Max-Planck Institut für Extraterrestrische Physik), Maria N. Drozdovskaya (University of Bern), Robin T. Garrod (University of Virginia), Niels F. W. Ligterink (Leiden University), Magnus V. Persson (Chalmers University of Technology), Susanne F. Wampfler (University of Bern), and the ROSINA team

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1. クロロメタンは別名フロン40とも呼ばれ、以前は冷蔵庫などのための冷媒として広く使用されていましたが、高い毒性を持つため現在では利用されなくなっています。

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