アルマ望遠鏡、重力レンズ効果を受けない最遠の星形成銀河を発見

天文学者たちのチームは、アルマ望遠鏡を用いて、ビッグバンからわずか9億7000万年後に存在した巨大銀河の光をとらえました。この銀河は「MAMBO-9」と呼ばれ、重力レンズの助けなしに観測された天体としては最遠にある星形成銀河です。

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アルマ望遠鏡によって観測された大量の塵を含む星形成銀河「MAMBO-9」の電波画像。
銀河は2つの部分で構成されており、合体の途上にあります。
クレジット:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), C.M. Casey et al.; NRAO/AUI/NSF, B. Saxton

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銀河「MAMBO-9」を可視光で見た場合のイメージ図。
銀河は大量の塵を含んでいて、ほとんどの星がまだ形成されていません。
クレジット:NRAO/AUI/NSF, B. Saxton

塵に富んだ星形成銀河は、宇宙で最も荒々しい恒星の工場です。星形成銀河は、星の材料となる塵やガスを大量に含んでおり、1年間で太陽数千倍個分もの星を生み出すものもあります。(天の川銀河の星形成率は、年間で太陽の三個分ほど)。このような爆発的に星形成が進むモンスター銀河は、宇宙の初期段階には形成されないものと予測されてきました。しかし、天文学者たちはすでに、宇宙誕生から10億年に満たない宇宙でモンスター銀河を幾つか発見しています。そのひとつは、アルマ望遠鏡が2018年に観測した銀河「SPT0311-58」です。

このような銀河の極端なふるまいによって、天文学者は、大量の塵を含んだ銀河が宇宙の進化に重要な役割を果たしていると考えています。しかし、星形成銀河を発見するのは、言うは易く行うは難(かた)し、簡単なことではありません。アストロフィジカル・ジャーナル・レターズに発表された論文の主著者であり、テキサス大学オースティン校のケイトリン・ケイシー氏はつぎのように述べています。「これらの銀河は目の前にありながら、隠れている傾向があります。我々は、銀河がそこにあることを知っています。しかし、銀河の星明かりは、塵の雲で隠されており、星形成銀河を発見するのは容易なことではありません。」

銀河「MAMBO-9」の光は、すでに10年前、今回の論文の共著者であるマニュエル・アラベナ氏によって検出されていました。アラベナ氏らは、スペインにあるIRAM 30m望遠鏡に搭載されたMAMBO(Max-Planck Millimeter BOlometer)という電波カメラと、フランスにあるビュール高原電波干渉計(Plateau de Bure Interferometer)を用いました。しかし、このときの観測は、銀河の距離を明らかにするほど十分な感度がありませんでした。当時ドイツの博士課程に在籍中で、現在はチリのディエゴ・ポルタレス大学に勤務するアラベナ氏はつぎのように述べています。「我々は、この発見が真実かどうか疑っていました。他の望遠鏡では発見できなかったからです。しかし、この結果が真実だった場合、この銀河は地球から非常に遠く離れていなければなりませんでした。」銀河までの距離が非常に遠いということはすなわち、宇宙の初期段階に形成された天体を見ている、ということになります。

ケイシー氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡の感度のおかげで、銀河「MAMBO-9」の距離を測定できるようになりました。「我々は、宇宙の初期段階に存在する塵に富んだ星形成銀河を探すための特別な観測を実施し、この銀河を見つけました。そしてこの観測で特別なことは、銀河「MAMBO-9」が、重力レンズ効果による増光なしに観測された最遠の塵に富んだ銀河だということです。」とケイシー氏は述べています。

遠くの銀河からやってくる光は、地球の近くにある他の銀河によってしばしば影響を受けます。地球から見て手前にある銀河は、重力レンズとして機能します。重力レンズは、より遠くの銀河からの光を曲げます。そして、遠くの銀河の姿をより明るく、拡大して見ることができます。この重力レンズ効果によって、望遠鏡は遠くの天体を見つけやすくなるのです。(これは、アルマ望遠鏡が銀河「SPT0311-58」を見つけた方法です)。ただし、重力レンズは天体の像を歪めるため、詳細を把握するのは難しくなります。

今回の研究では、重力レンズ効果による増光なしに銀河「MAMBO-9」を直接観測しました。そのため、銀河の質量まで容易に測定することができたのです。「MAMBO-9のガスと塵の総質量は膨大です。天の川銀河のすべての星を合わせた10倍もの量があります。つまり、MAMBO-9のほとんどの星がまだ形成されていないということです。」とケイシー氏は言います。銀河「MAMBO-9」は2つの塊で構成されており、現在、合体プロセスの中にあります。

ケイシー氏は、アルマ望遠鏡を用いて、もっと遠くの星形成銀河を見つけたいと考えています。それは、大量の塵を含む星形成銀河がどれほど一般的か、この巨大銀河が宇宙初期にどのように形成されたのか、なぜそれほど大量の塵を含んでいるのかについて新たな知見を与えてくれることでしょう。「塵は通常、死にかけている星の副産物です。」と彼女は言います。「我々は、星が塵の100倍あると想定しています。しかし、MAMBO-9では、ほとんどの星がまだ形成されていません。我々は、ビッグバン後の初期宇宙において、どうしたら塵がこれほど早い時期に形成されるのかを明らかにしたいのです。」

「最新かつ高度な技術を用いた観測によって、MAMBO-9のような予期せぬ発見が生まれる可能性があります。」と、アルマ望遠鏡及びアメリカ国立電波天文台(NRAO)を管轄する全米科学財団プログラムオフィサーであるジョー・ペス氏は述べています。「初期宇宙にどうしてこれほど巨大な銀河が作られたのかを説明するのは難しいことですが、この発見によって、天文学者たちは宇宙についての理解を深め、これまで以上の問いを投げかけることができます。」

銀河「MAMBO-9」からの光は、アルマ望遠鏡のアンテナに到達するまで、約130億年かけて宇宙を旅してきました(現在、宇宙は約138億歳です)。これは、銀河の過去の姿を見ているということです(アルマ望遠鏡がタイムマシンとしてどのように機能するかについては、こちらの動画「アルマ望遠鏡は、タイムマシン」をご覧ください)。現在、銀河「MAMBO-9」は、おそらく観測されている姿よりもずっと大きくなり、巨大銀河団の中で、天の川銀河の100倍以上の星を持つ超巨大銀河になっていることでしょう。

論文・研究チーム

この観測成果は、C. M. Casey et al. “Physical characterization of an unlensed dusty star-forming galaxy at z = 5.85” として、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に掲載されました。DOI:10.3847/1538-4357/ab52ff

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