アルマ望遠鏡が描く双子の星の軌道運動

鹿児島大学の大学院生 市川貴教氏 (研究当時)、城戸未宇氏、高桑繁久教授らの研究チームは、若い双子の星(連星)おうし座XZ星系を3年間にわたって観測したアルマ望遠鏡のアーカイブデータを解析することにより、連星が互いの周りを回る軌道運動を検出することに成功しました。アルマ望遠鏡の豊富なアーカイブデータを有効活用して若い連星の運動を動画として示した、初めての例であるといえます。この結果は、複数年にわたるアルマ望遠鏡観測データを解析することで天体の様々な時間変化を調べられることを示しており、「アルマ望遠鏡によるアニメーション」を用いた新たな科学の開拓が期待できる成果です。

宇宙は、2つの星が互いの周りを回っている双子の星、連星であふれています。また、年齢の若い連星のそれぞれの星の周囲には、分子ガスと塵(ちり)からなる「原始惑星系円盤」が存在し、この円盤が惑星形成の現場であることがわかっています。実際に連星に付随する惑星も多く検出されてきていますが、連星系でどのように円盤が形成され、その中で惑星が作られるのかはいまだに謎に包まれています。

連星における惑星形成を調べるためには、2つの星が互いの周りを回っている軌道運動を観測から正確に求め、個々の原始惑星系円盤の傾き、回転方向と軌道運動を比較することが重要になります。もし連星や原始惑星系円盤が、ひとつの大きな円盤が分裂することによって形成されるのであれば、連星の軌道と個々の円盤は同一平面上に存在するはずです。一方、分子ガスが乱流によって分裂することで連星や原始惑星系円盤が形成されるのであれば、連星の軌道面と円盤の面は異なっていることが予想されます。これは、最終的に出来上がる惑星の軌道面にも影響する、大きな問題です。

市川氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡のアーカイブデータを活用して、年齢が1000万年程度の若い連星おうし座XZ星系(地球からの距離はおよそ480光年)について調べました。その結果、個々の原始惑星系円盤が40度以上傾いていることが明らかになりました。さらに2015、2016、2017年と1年おきに観測されたデータを解析した結果、連星が時計回りに運動していることを発見しました。これは連星の軌道運動を見ているものと考えられます。3年間での軌道運動の大きさは3.4天文単位(地球と太陽の間の距離の3.4倍)に達します。さらにこの連星系の軌道面は、個々の原始惑星系円盤の円盤面とも異なっていることが明らかになりました。つまり、連星を作る2つの星が持つ個々の円盤が互いに傾いているだけでなく、連星どうしの軌道を含めすべてが異なる平面上にあることが明らかになりました。

これまでのアルマ望遠鏡による観測でも、若い連星の原始惑星系円盤が互いに傾いている例は発見されていました(注)。しかし、連星の軌道運動を明らかにしたうえで、連星の軌道面とも異なる傾きを持っていることがわかったのは、今回が初めてのことです。

 

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アルマ望遠鏡アーカイブデータをもとに作成した、おうし座XZ星系の軌道運動。おうし座XZ星A(左下)の位置を固定し、おうし座XZ星B(右上)の位置の変化を表しています。円盤から放射される電波の強度分布を、2015年はグレースケール、2016年は赤色の等高線、2017年は青色の等高線で表し、それぞれから求められた星の位置を十字印で示しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Ichikawa et al.

 

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アルマ望遠鏡アーカイブデータをもとに作成した、おうし座XZ星系の軌道運動のアニメーション。おうし座XZ星A(左下)の位置を固定し、おうし座XZ星B(右上)の位置の変化を表しています。円盤から放射される電波の強度分布を、年ごとにグレースケールと等高線で表し、求められた星の位置を十字印で示しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Ichikawa et al.

 

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今回の観測結果をもとに描いた、おうし座XZ星系の想像図。連星系を成す2つの若い星のまわりにそれぞれ原始惑星系円盤があり、互いに傾いています。また、2つの若い星はいずれの円盤面とも異なる平面上を軌道運動しています。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

 

市川氏は、「これは、アルマ望遠鏡の高い解像度と豊富なアーカイブデータによって成し遂げられた成果です。本研究は3年分の観測データを活用しましたが、今後の追加観測によってさらに観測点を増やし、より正確な軌道運動を検出したいと考えています」と語っています。さらに市川氏は「この研究は、これまでの『天体画像』ではなく『天体アニメーション』を使った新たな研究手法の可能性を示しています。この手法が今後、様々な天体現象の解明の手助けとなれたらと思っています」とコメントしています。

本研究に第2著者として参加した城戸氏は、「学部4年生のうちから、アルマ望遠鏡を用いたこのような最先端の研究に貢献することができて、とても光栄です。本研究に参加することで得られた経験を、ぜひ私自身の今後の研究に活かしていきたいです」と述べています。

高桑教授は、「この研究は、高感度かつ高解像度を誇るアルマ望遠鏡の膨大なアーカイブデータをフル活用することにより、天体の運動の動画を作成し、それに基づいた研究ができることを示しました。この研究手法は連星の軌道運動のみならず、星から吹き出すジェットの運動や星の明るさの時間変化など、様々な天体物理学研究に応用可能です。」と語っています。

注:アルマ望遠鏡で互いに傾いた星周円盤が発見された例としては、おうし座HK星系(2014年7月31日掲載『アルマ望遠鏡、互いに傾いた原始惑星系円盤を連星系で発見』)、IRAS 04191+1523(2017年7月1日掲載『乱流の中で生まれた互い違いの双子星』)があります。

 

論文情報
この研究成果は、Takanori Ichikawa et al. “Misaligned Circumstellar Disks and Orbital Motion of the Young Binary XZ Tau”として、米国の天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」に2021年9月23日付で掲載されました。

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No. JP18K03703, JP21H00048, JP21H04495, JP19K23463, JP20K04035, JP21H00057, JP18K13581, JP18H05437, JP21J23102)からの支援を受けて行われました。

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