日本主導で始まるデータ伝送システムのアップグレード

アルマ望遠鏡は2018年、2030年代の望遠鏡性能向上に向けた開発戦略ビジョンをアルマ望遠鏡将来開発ロードマップとして発表しました。このビジョンで特定された主な優先事項は、受信機の IF(Intermediate Frequency:中間周波数)帯域幅(※1)を少なくとも 2 倍に広げ、関連するエレクトロニクスと相関器をアップグレードすることです。このアップグレードは現在、アルマ2030 広帯域感度アップグレード (WSU) として知られています。2022 年 11 月、アルマ評議会は、米国が主導する第 2 世代相関器の開発と、日本が主導する新しいデータ伝送システム (DTS) の開発に関するプロジェクト提案を承認しました。

アルマ2030 WSUにより、性能が向上したアルマ望遠鏡を用いて新しい天文研究が可能になります。また、IF 帯域幅が広がることは、同じ観測時間で得られる科学データの量が劇的に増えることを意味し、研究を効率的に進めることができるようになります。

ただし、そのためには、“眼”にあたるアンテナで取得した観測データを解析する“頭脳”である相関器へ送るデータ伝送システム(DTS)も、大量のデータを高速で送れるようにアップグレードが必要になります。このアップグレードは、日本の国立天文台が米国国立天文台(NRAO)と協力して進めていきます。

昨今の高度情報化社会において、日常生活でもよく聞く通信規格の1つにイーサネットがあります。これまで、アルマでは、こうした日常生活で使われるものとは異なる通信システムを用いてきましたが、その場合、不具合が発生した際に交換する部品が簡単に入手できないなどの不都合が生じます。それを回避するため、今回のDTSアップグレードではイーサネットを用います。まだ世の中に出始めたばかりの400 Gbps(ギガビット毎秒)の高速イーサネット回線を複数引いて、最高で1200 Gbpsの高速伝送システムを構築します。また、400 Gbpsイーサネットの長距離オプションを用いると80 kmの距離にわたってデータを伝送することも可能になり、将来、アンテナ間の距離を延ばすことができるようになります。それにより、アルマの角度分解能が向上し、これまでにない鮮明な画像の撮れる、より強力な望遠鏡になります。

※1 IF(Intermediate Frequency:中間周波数)帯域幅
それぞれの受信機は、ある周波数の範囲の電波に感度を持ち、その範囲外の電波は受信できない。それぞれの受信機の受信可能な周波数の範囲のことを帯域幅という。また、アルマ望遠鏡は高い周波数の電波を観測しているため、より扱いやすい比較的低い周波数(=中間周波数:Intermediate Frequency)に変換して処理している。今回のアップグレードでは、変換後のIFの帯域幅でこれまでの2倍以上に広げることを目標としている。

■アップグレードで、何がどうなるの?
天体はさまざまな原子や分子で構成されており、それぞれが異なる周波数の電波を放ちます。例えば、115 GHzの電波を放つ一酸化炭素分子は、温度と密度の低い希薄なガスの指標であり、宇宙空間のいたる所に漂っています。それとは反対に、89 GHzの電波を放つシアン化水素は、比較的温度や密度の高いガスの指標として知られています。この2つを比較することで、希薄なガスの漂う環境から星がどのようにして生まれるのかを探ることができます。このように、多くの分子を同時に観測することで、いろいろな天体現象が明らかになります。多くの分子を同時に観測するということは、広い周波数帯の電波を同時に観測するということです。しかし、広い周波数帯を一度に観測することは技術的に難しいため、現在は、狭い周波数帯に分けて何回も観測することで、広い周波数帯をカバーしています。しかしそれでは多くの観測時間が必要になります。
一度に広い周波数帯を観測できるように受信機を改良し、また、それに伴い取得可能になる大量のデータを送れるよう伝送システムを改良することによって、これまでと同じ観測時間で、より広い周波数帯の電波を高感度に観測し、解析できるようになります。今まででは捉えられなかった新たな発見が期待されます。

 

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アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計、Atacama Large Millimeter/submillimeter Array: ALMA)は、欧州南天天文台(ESO)、米国国立科学財団(NSF)、日本の自然科学研究機構(NINS)がチリ共和国と協力して運用する国際的な天文観測施設です。アルマ望遠鏡の建設・運用費は、ESOと、NSFおよびその協力機関であるカナダ国家研究会議(NRC)および台湾行政院科技部(MoST)、NINSおよびその協力機関である台湾中央研究院(AS)と韓国天文宙科学研究院(KASI)によって分担されます。 アルマ望遠鏡の建設と運用は、ESOがその構成国を代表して、米国北東部大学連合(AUI)が管理する米国国立電波天文台が北米を代表して、日本の国立天文台が東アジアを代表して実施します。合同アルマ観測所(JAO)は、アルマ望遠鏡の建設、試験観測、運用の統一的な執行および管理を行なうことを目的とします。

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